矯正の保険適用の条件とは?対象疾患や費用・医療機関を解説

矯正で保険適用を受けられるかどうか、自分のケースが条件に当てはまるか気になっていませんか。
矯正治療の保険適用は、厚生労働大臣が定める66疾患による不正咬合、前歯・小臼歯3歯以上の永久歯萌出不全による咬合異常、顎変形症の手術前後の矯正歯科治療の3つの条件のいずれかを満たす場合に限られ、見た目を目的とした一般的な出っ歯や受け口の矯正は対象外となります。
治療を受けられる医療機関も、厚生労働大臣が定める施設基準に適合し、地方厚生局に届け出ている保険医療機関のみに限られるため、近所のすべての歯科医院で保険適用の矯正が受けられるわけではない点には注意が必要です。
この記事では、矯正で保険適用になる3つの条件、対象となる66疾患の代表例、保険適用が受けられる指定医療機関、費用の目安、保険適用が認められないケース、治療の流れ、Q&Aまでまとめて整理しているので、矯正の保険適用が気になる方はぜひ参考にしてみてください。
矯正の保険適用の条件は?
矯正で保険適用が認められるかどうかは、症例が厚生労働大臣の定める要件に当てはまるかで決まり、見た目だけを目的とした一般的な矯正治療は基本的に対象外です。
保険適用が認められる条件は大きく3つに分かれており、厚生労働大臣が指定する66疾患による不正咬合、前歯または小臼歯3歯以上の永久歯萌出不全による咬合異常、顎変形症の手術前後の矯正歯科治療のいずれかに該当する場合に限られます[2]。
3つの条件のうちひとつでも当てはまれば保険適用の対象となり、3割負担で矯正治療を受けることができますが、自分の症例が条件に該当するかどうかは医療機関での診断によって判断される領域です。
治療を提供できる医療機関も、厚生労働大臣が定める施設基準を満たして地方厚生局に届け出ている保険医療機関のみに限定されており、どの歯科医院でも対応できるわけではない点には注意が必要です[3]。
また、保険適用の矯正治療では一般的なワイヤー矯正が使われ、マウスピース矯正や裏側矯正などの審美装置を選んだ場合は混合診療禁止のルールにより治療全体が自費になるため、装置の選び方も重要な判断要素になります。
3つの条件、対象疾患、指定医療機関、費用目安、混合診療のルールを順番に押さえておくと、自分のケースで保険適用が受けられるかを冷静に確認しやすい状態をつくれます。
保険適用になる3つの条件
矯正治療の保険適用は、厚生労働大臣が定めた3つの条件のいずれかを満たす場合に限られています。
「自分のケースはどの条件に当てはまるのか」を整理しておくと、保険適用の可否を判断する材料が見えやすくなるのではないでしょうか。
ここでは、保険適用の対象となる3つの条件を順番に整理していきます。
条件1:厚生労働大臣が定める疾患による不正咬合
1つ目の条件は、厚生労働大臣が定める疾患による不正咬合に対する矯正歯科治療です。
一部の先天性疾患では、その症状の一つとして歯や顎の発達に異常が現れることが知られており、こうした疾患による不正咬合は治療上の必要性が高いと判断され、保険適用が認められているためです。
対象となる疾患は厚生労働大臣によって指定されており、現行の制度では66の疾患が対象に含まれているとされ、唇顎口蓋裂やダウン症候群、鎖骨頭蓋骨異形成、ゴールデンハー症候群などが代表例として挙げられます。
疾患の診断は患者本人で判断できるものではなく、医療機関で疾患名が明記された診断書や母子手帳の記載などをもとに、保険適用の対象となるかが判断される仕組みです。
条件1は、3つの条件のなかでもっとも多くの症例をカバーする範囲で、子供の矯正でも対象となりうる重要な枠組みといえます。
自分や家族の症例が指定疾患に該当する可能性があるときは、診断のときに「保険適用の対象になるか」を歯科医師に確認しておくと安心です。
条件2:前歯・小臼歯3歯以上の永久歯萌出不全
2つ目の条件は、前歯または小臼歯のうち3歯以上の永久歯がうまく生えてこないことで起こる咬合異常に対する矯正歯科治療です。
永久歯が3歯以上にわたって萌出しない状態は、噛み合わせや歯列に大きな影響を与え、矯正治療単独だけでなく埋伏歯開窓術と呼ばれる外科処置との併用が必要となる症例のため、医療上の必要性が高いと判断されているからです。
「萌出不全」とは永久歯が骨や歯ぐきの中に埋まったままなどの理由で正しい位置に出てこられない状態を指し、原因には先天的な要因や生え方の異常など複数の要素が関わります。
3歯以上が対象になる点が条件のポイントで、1〜2歯の萌出不全では保険適用にならないケースが多く、この点が判断の分かれ目となります。
条件2は子供の矯正で発見されやすい症例で、レントゲンで永久歯の位置や本数を確認することで判定される領域です。
「自分の子供は萌出不全がある気がする」と感じる場合は、早めに矯正歯科でレントゲン診断を受けると、保険適用の可能性も含めて方針を立てやすくなります。
条件3:顎変形症の手術前後の矯正歯科治療
3つ目の条件は、顎の骨の大きさ・位置・形に著しい異常があり、外科手術によって顎の位置を整える顎変形症に対する手術前後の矯正歯科治療です。
顎変形症は歯を動かすだけでは噛み合わせを整えきれず、顎離断などの外科手術と組み合わせる必要があるため、治療上の必要性が認められて保険適用の対象に含まれているからです。
顎変形症の保険適用には、診断名がついていること、指定された顎口腔機能診断施設で治療を受けること、唇側の一般的な矯正装置を用いること、術前矯正→手術→術後矯正の流れで進めることなどの要件があります。
重度の受け口や上下顎前突などで「歯だけの矯正では限界がある」と判断された場合に、顎変形症の診断のもとで保険適用の治療が選択肢になることもみられます。
条件3は3つのなかでもっとも工程が大がかりで、矯正歯科と口腔外科が連携して進める必要があり、高額療養費制度の対象にもなりやすい治療です。
自分が顎変形症に該当するかどうかは矯正歯科や口腔外科の精密診断で判断される領域のため、気になる場合は専門医療機関への相談が安心です。
保険適用対象となる66疾患の代表例
矯正の保険適用の対象となる「厚生労働大臣が定める疾患」は、現行の制度で66の疾患が指定されており、その多くは生まれつき歯や顎、顔面の発達に影響を与える先天性疾患です。
「自分や家族の疾患が対象に入っているのか」を知ることが、保険適用を考えるうえで最初の手がかりになるのではないでしょうか。
ここでは、66疾患のうち代表的なものを3つのグループに分けて整理していきます。
唇顎口蓋裂などの口腔の先天性疾患
矯正の保険適用対象となる疾患のなかで、もっとも代表的とされているのが唇顎口蓋裂です。
唇顎口蓋裂は胎児期に上顎の唇や骨の発育が完全に進まないまま生まれてくる先天性の疾患で、口の中の発達に直接影響することから、矯正治療が医療上必要と判断されているためです[1]。
唇顎口蓋裂は500人に1人程度の確率で生じるとされ、口蓋の裂け方や唇の裂け方の組み合わせによって、唇裂・口蓋裂・唇顎裂・唇顎口蓋裂と細かく分類されます。
こうしたお口の先天性疾患は、生まれてすぐから医療機関での治療が始まることが多く、成長段階に合わせた矯正歯科治療が保険適用のもとで継続的に行われていきます。
同じグループには口唇裂、口蓋裂、軟口蓋裂など口腔まわりの先天性疾患も含まれており、いずれも矯正治療の必要性が高いことから保険適用の対象になっています。
自分や家族にこれらの疾患の診断がある場合は、母子手帳や診断書を持参して矯正歯科に相談することで、保険適用で治療を進めやすくなります。
ダウン症候群やトリーチャー・コリンズ症候群などの染色体・先天異常
保険適用対象の66疾患には、ダウン症候群やトリーチャー・コリンズ症候群など染色体異常や先天異常に由来する疾患も多く含まれています。
こうした疾患では、染色体や遺伝子の段階で発達のしかたに影響が生じるため、歯や顎の形状・位置にも先天的な異常が現れやすく、矯正治療の医療上の必要性が高くなるからです。
ダウン症候群は染色体異常としてもっとも知られた疾患のひとつで、顎の発達や噛み合わせに影響が出ることが多く、長期にわたる矯正治療が支援の対象となっています。
トリーチャー・コリンズ症候群、クラインフェルター症候群、コルネリア・デランゲ症候群など、症候群と呼ばれる先天異常も対象に含まれており、症例ごとに必要な矯正治療が保険適用で受けられる仕組みです。
染色体・先天異常系の疾患は、医療機関で診断名がついている場合に保険適用の手続きが進めやすく、母子手帳や診断書がそのまま申請書類として活用されることもあります。
該当する診断を受けている場合は、矯正歯科を選ぶ段階から「保険適用が可能か」を相談しておくと、治療の方針と費用の両面が見通せて安心です。
ゴールデンハー症候群・ピエール・ロバン症候群などの顔面の先天異常
顔面の先天的な発達に影響を与える疾患も、保険適用対象の66疾患に含まれる代表的なグループです。
これらの疾患は顔面の骨や軟組織の発達に偏りが生じるため、噛み合わせや歯並びの異常を伴うケースが多く、矯正治療の必要性が高いと判断されているからです。
ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む)は顔の左右で発達のバランスが偏る疾患で、上下の顎や噛み合わせに大きな影響を及ぼすことが知られている代表例です。
ピエール・ロバン症候群は下顎の発達が抑えられる先天異常で、舌の位置や顎の小ささから噛み合わせや呼吸への影響も生じやすく、矯正治療が長期にわたって行われるケースがみられます。
同じグループには鎖骨頭蓋骨異形成、クルーゾン症候群、アペール症候群など、顔面骨や頭蓋骨の発達に関わる症候群が幅広く含まれているとされています。
こうした診断がある場合は、症状の進行に合わせて子供のうちから大人まで矯正治療を継続できる仕組みが用意されているため、長期計画を立てやすい点が大きな安心材料になります。
保険適用が受けられる指定医療機関
保険適用で矯正治療を受けるには、厚生労働大臣が定める施設基準を満たして地方厚生局に届け出ている指定医療機関を選ぶ必要があります[3]。
「自宅近くの矯正歯科ならどこでも保険適用で受けられるのでは?」と感じる方もいるかもしれませんが、対象となる医療機関は限られているため、事前に確認しておくことが大切です。
ここでは、指定医療機関の種類と探し方を3つの観点から整理していきます。
矯診(歯科矯正診断料)算定の指定医療機関
矯診と呼ばれる「歯科矯正診断料」を算定できる指定医療機関は、保険適用の条件1(厚生労働大臣が定める疾患)と条件2(永久歯3歯以上の萌出不全)に該当する症例を保険で受けられる施設です。
矯診の指定を受けるには、矯正治療を担当する歯科医師の経験年数や設備など、厚生労働大臣が定める施設基準を満たす必要があるため、すべての歯科医院で対応できるわけではないからです。
矯診の医療機関では、唇顎口蓋裂やダウン症候群などの先天性疾患による不正咬合の治療や、3歯以上の永久歯萌出不全による咬合異常の治療を、保険適用のもとで進められます。
矯診の届出を受けている医療機関は地方厚生局のサイトで公開されており、地域別に一覧で確認できる仕組みが整えられている点も特徴です。
条件1や条件2に該当する症例の方は、まず矯診の届出のある医療機関を探すところから保険適用の流れが始まります。
自分の地域でどの医療機関が矯診に該当するかは、地方厚生局の公式情報や日本矯正歯科学会のサイトで確認しておくとスムーズです。
顎診(顎口腔機能診断料)算定の指定医療機関
顎診と呼ばれる「顎口腔機能診断料」を算定できる指定医療機関は、保険適用の条件3(顎変形症の手術前後の矯正歯科治療)に該当する症例を保険で受けられる施設です。
顎変形症の治療は外科手術と矯正治療を組み合わせて行う必要があるため、より高度な設備と口腔外科との連携体制が求められ、矯診よりさらに限定された施設基準が設けられているからです。
顎診の医療機関では、術前の矯正治療から外科手術、術後の矯正治療までを一連の流れとして保険適用で受けられる仕組みがあり、矯正歯科と口腔外科が連携している病院やクリニックが対象になります。
顎診の届出を受けている医療機関は矯診よりも少なく、地域によっては大学病院や大規模な医療機関に集中している傾向もあるため、住んでいる地域から通える範囲を事前に調べておく必要があります。
顎変形症の保険適用を考える場合は、顎診の指定医療機関で最初の相談を受けることが、その後の治療計画をスムーズに進めるための入口になります。
一般の歯科医院で「顎変形症のような気がする」と相談しても、顎診の指定がない場合は対応が難しいため、はじめから顎診の医療機関を探すのが効率的です。
指定医療機関の探し方
指定医療機関を探すもっとも確実な方法は、地方厚生局のサイトで届出のある医療機関の一覧を確認することです[3]。
地方厚生局には、矯診や顎診の届出を受けている医療機関の一覧がPDFや検索ページで公開されており、自分の住んでいる都道府県から対象施設を絞り込める仕組みになっているためです。
サイトでは「歯科矯正診断料」や「顎口腔機能診断料」のキーワードで検索することで、矯診・顎診それぞれの届出施設を確認でき、施設名と所在地から通いやすい医療機関を選ぶことが可能です。
公益社団法人 日本矯正歯科学会のサイトでも、保険適用の矯正治療に対応できる医療機関の情報がまとめられており、地方厚生局の一覧とあわせて参考にすると探しやすくなります。
矯正歯科の電話相談やホームページの確認だけでは保険適用の可否が判断しづらいことも多いため、公式の届出情報を確認したうえで初診相談に向かうのが現実的な進め方です。
自分のケースで保険適用を受けたい場合は、こうした公式の情報源を活用してから医療機関を選んでいくと、無駄な相談時間や費用の発生を避けやすくなります。
保険適用の矯正治療の費用目安
保険適用が認められた場合の矯正治療の費用は、自由診療と比べて大きく抑えられるのが特徴です。
公的医療保険の3割負担を前提とすると、矯正治療のメインとなる検査・装置・調整の費用を合わせて、おおよそ20〜50万円程度に収まるケースが目安として挙げられます。
条件3の顎変形症のケースでは、矯正治療に加えて顎の骨を動かす外科手術が必要となるため、入院・手術の費用も別途発生し、合計で50〜100万円程度になる症例もみられます。
外科手術部分は高額療養費制度の対象になりやすく、所得に応じた自己負担限度額を超えた分は還付されるため、最終的な自己負担額は表面上の請求額よりも低くなる傾向があります。
子供の矯正治療では、自治体ごとの医療費助成制度や、自立支援医療(育成医療)の対象になる場合があり、自己負担がさらに軽減される可能性も用意されています[2]。
自由診療の矯正治療では全体で60〜120万円程度かかるのが一般的であるのに対し、保険適用が認められれば、装置や治療内容の制限はありつつも、費用面の負担を大きく抑えられるのが大きなメリットです。
ただし、保険適用の条件を満たしていても、マウスピース矯正や裏側矯正を選択した場合は混合診療禁止のルールにより治療全体が自費になるため、装置の選び方が費用に直結する点には注意が必要です。
費用の具体的な目安や還付制度の活用方法は症例によって異なるため、見積もりや高額療養費制度の適用条件は、指定医療機関で事前に確認しておくと安心です。
保険適用が認められないケース
矯正治療で保険適用が認められないケースは、3つの条件のいずれにも該当しない一般的な歯並びの問題が中心です。
「自分の出っ歯や八重歯は保険でなんとかならないのか」と感じる場合もありますが、現行の制度では適用範囲が限定されているのが現実です。
ここでは、保険適用が認められないケースを3つの観点から整理していきます。
一般的な出っ歯・受け口・八重歯の矯正
矯正で保険適用が認められない代表的なケースは、見た目の改善を主な目的とした一般的な不正咬合の治療です。
出っ歯・受け口・八重歯・叢生といった歯並びの乱れは、生活への大きな支障がない限り「美容目的」とみなされ、医療上の必要性が高いとは判断されないため、自由診療として扱われるからです。
軽度〜中等度の出っ歯や受け口、口ゴボ、すきっ歯、八重歯などの矯正は、見た目や噛み合わせの改善を望む方が多いものの、原則として保険適用にならない領域に該当します。
同じ「受け口」や「出っ歯」でも、骨格の大きなズレを伴って顎変形症と診断される重度のケースでは条件3で保険適用される一方、軽度〜中等度のケースは自由診療となる線引きが特徴です。
「歯並びが気になる」「噛み合わせを整えたい」というレベルの不正咬合は、保険適用にはなりにくく、自由診療として60〜120万円程度の費用が必要になる範囲だと理解しておくと判断しやすいです。
自分のケースが保険適用かどうかは見た目だけでは判断できないため、矯正歯科で精密診断を受けて、条件3に該当する余地があるかも含めて確認しておくと安心です。
マウスピース矯正や裏側矯正など審美装置を使った場合
保険適用の対象となる症例でも、マウスピース矯正や裏側矯正など審美性を重視した装置を使った場合は、保険適用が認められなくなります。
アライナーや一部の舌側矯正などの審美装置は、厚生労働省が定める特定保険医療材料として認められていないため、保険適用の対象から外れてしまうからです。
保険適用の矯正治療では一般的なワイヤー矯正(唇側矯正)が用いられ、装置の見た目を理由に審美的な装置を選んだ場合は、治療内容が同じでも保険の対象外となります。
顎変形症のケースでも、術前矯正からマウスピース矯正で進めると治療全体が自費扱いになる仕組みのため、装置選びは治療全体の費用に直接影響する重要な判断ポイントです。
「目立たない装置で保険適用も受けたい」という希望は基本的に両立せず、装置の見た目と費用負担のどちらを優先するかの選択が問われる構造になっています。
装置の選び方が保険適用の可否に直結するため、治療開始前に「どの装置で保険適用が成立するか」を歯科医師に確認しておくことが、後の費用トラブルを避ける近道です。
混合診療になるケース
保険適用の矯正治療と自由診療の矯正治療を組み合わせると、「混合診療」と呼ばれる扱いになり、保険適用がそのまま自費扱いに切り替わってしまいます。
日本の公的医療保険制度では、保険診療と自由診療を同じ治療のなかで併用することが原則として認められておらず、保険診療に自由診療の処置が含まれると治療全体が自費になるルールがあるためです。
アライナー矯正で外科矯正治療を行った場合、矯正治療だけでなく入院手術部分も健康保険が適用できなくなり、外科矯正治療全体が自費診療となる仕組みが代表的な事例です。
「審美的な装置を一部だけ使いたい」「装置を途中で変更したい」といった選択も、混合診療のルールに引っかかると治療全体の費用負担が大きく変わるため、慎重な検討が必要になります。
混合診療のルールは患者目線ではややわかりにくい仕組みですが、保険適用の矯正治療を考えるうえでは避けて通れない重要な前提です。
装置の選び方や治療途中での変更を考える際は、混合診療に該当しないかをあらかじめ歯科医師に確認しておくことが、想定外の費用負担を避ける鍵になります。
保険適用矯正の治療の流れ
保険適用の矯正治療は、指定医療機関で診断を受けるところから始まり、症例によっては外科手術を含む長期の治療になります。
最初のステップは、保険適用の可能性がある症例として、矯診または顎診の指定医療機関に初診相談を申し込むところからのスタートです。
初診相談では、現状の歯並び・噛み合わせ・顔貌・症状について確認したうえで、母子手帳や診断書など疾患名がわかる書類を持参すると、保険適用の可否を判断する材料として活用してもらえます。
その後、精密検査(レントゲン・歯型・口腔内写真・CTなど)が行われ、保険適用の条件に該当するかどうかが診断され、治療計画と費用の説明が行われていきます。
保険適用の対象と認められた場合は、条件1や条件2では一般的なワイヤー矯正で歯並びと噛み合わせを整える治療が、条件3では術前矯正→外科手術→術後矯正という大きな流れで進めていく形となります。
顎変形症の治療では、術前矯正に1〜2年程度、外科手術と入院、その後の術後矯正に1年程度かかるのが目安で、合計で2〜4年程度の治療期間となるケースが多くみられます。
すべての工程で保険診療が成立するためには、定められた装置と方法のみを使用する必要があり、途中で装置を変更すると混合診療となる可能性があるため注意が必要です。
最終的に装置を外した後は、保定期間に入り、整った噛み合わせを維持するためのリテーナー装着が続きますが、保定期間も保険適用の範囲で行われるのが一般的です。
治療完了までの全体像をあらかじめ理解しておくと、長期の通院と費用負担に対する見通しが立てやすく、治療を継続するモチベーションも保ちやすくなります。
矯正の保険適用に関するよくある質問
矯正の保険適用について、よく寄せられる質問をまとめました。
気になる項目から確認し、不安が残る部分は矯正歯科でもあわせて相談してみてください。
Q. 子供の歯並びでも矯正は保険適用されますか?
A. 子供の歯並びそのものに保険が適用されるわけではなく、3つの条件のいずれかに当てはまる場合に保険適用となります。
唇顎口蓋裂などの先天性疾患による不正咬合や、永久歯3歯以上の萌出不全による咬合異常がある場合は、子供の段階から保険適用で矯正治療を受けられるケースが多くみられます。
一般的な出っ歯や受け口、八重歯などの矯正は、子供であっても保険適用にならず自由診療となるため、自治体の医療費助成や自立支援医療(育成医療)の対象になるかも含めて確認しておくと安心です。
Q. 矯正の保険適用は大人でも受けられますか?
A. 大人でも、3つの条件のいずれかを満たせば矯正の保険適用は受けられます。
特に顎変形症の診断がついた重度の受け口や上下顎前突などのケースでは、大人になってから保険適用で外科矯正治療を受ける方も多く、年齢による上限はありません。
ただし、見た目の改善を主な目的とした一般的な大人の矯正は自由診療となり、保険適用は対象外のため、自分のケースが3条件に該当するかを矯正歯科で診断してもらうことが重要です。
Q. 保険適用の矯正でマウスピース矯正を選べますか?
A. 保険適用の矯正治療では、マウスピース矯正を選ぶことはできません。
マウスピース矯正で使われるアライナーは厚生労働省が定める特定保険医療材料に含まれていないため、保険適用の対象から外れる仕組みになっています。
「目立たない装置で矯正したい」と希望する場合は、保険適用ではなく自由診療として治療を受ける選択となり、装置の見た目と保険適用の可否を天秤にかけて判断する必要があります。
Q. 保険適用の申請に必要な書類は何ですか?
A. 保険適用の申請には、疾患名が明記された診断書や母子手帳、健康保険証などが活用されます。
条件1の指定疾患による不正咬合の場合は、母子手帳の出生時の記載や、医療機関で発行された疾患名入りの診断書が判断材料となるケースが多いです。
条件3の顎変形症では、顎診の指定医療機関で精密検査を受けたうえで「顎変形症」の診断が下されることが申請の前提となるため、まずは指定医療機関での診断を受けるところから始めるとスムーズに進みます。
まとめ
矯正の保険適用は、厚生労働大臣が定める66疾患による不正咬合、前歯・小臼歯3歯以上の永久歯萌出不全、顎変形症の手術前後の矯正歯科治療の3つの条件のいずれかを満たす場合に限られる仕組みです。
対象疾患には、唇顎口蓋裂、ダウン症候群、ゴールデンハー症候群、ピエール・ロバン症候群、鎖骨頭蓋骨異形成などの先天性疾患が幅広く含まれており、母子手帳や診断書が申請時の判断材料として活用されるケースが目立ちます。
治療を受けられる医療機関も、矯診(歯科矯正診断料)または顎診(顎口腔機能診断料)の届出を地方厚生局に行っている指定医療機関に限られるため、近所の歯科医院であればどこでも対応できるわけではない構造です。
費用面では、保険適用が認められれば3割負担で20〜50万円程度、顎変形症の外科手術を含むケースでも高額療養費制度を活用することで自己負担を抑えやすく、自由診療の60〜120万円と比べて大きな違いが生まれます。
一方で、一般的な出っ歯や受け口、八重歯などの矯正、マウスピース矯正や裏側矯正など審美装置を使った場合、混合診療になる組み合わせなどは、現行の制度では保険適用の対象外となる範囲です。
保険適用矯正の流れは、矯診や顎診の指定医療機関での初診相談から始まり、精密検査・診断・治療計画・実際の治療・保定までを長期にわたって進めていく形が一般的です。
整えた歯並びと噛み合わせは口の健康を長く守ることにもつながるため、矯正の保険適用が気になる場合は、ひとりで悩まずに歯科医師と相談しながら自分のケースに合った選択肢を確認していきましょう[1]。
参考文献
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯・口腔の健康」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth.html
[2] 厚生労働省「自立支援医療制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000699182.pdf
[3] 関東信越厚生局 施設基準届出受理医療機関(顎口腔機能診断施設等)
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/teirei-shika.html
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。矯正の保険適用や治療方針については、矯診・顎診の指定医療機関にご相談ください。
※本記事で示した費用や治療期間はすべて目安であり、症例や治療計画、医療機関の方針によって異なります。
※保険適用の該当性や対象疾患の判断は、精密検査と歯科医師の診断によって行われる必要があります。