歯列矯正の費用相場は?種類別の目安と総額でかかるお金の内訳

歯列矯正を始めたいけれど、実際にいくらかかるのか見当がつかず迷っていませんか。
歯列矯正の費用は装置の種類だけでなく、動かす範囲や治療の難易度によって10万円台から160万円程度まで幅があります。
さらに装置代のほかにも、治療前の検査料や治療中の調整料、治療後の保定装置といった費用が段階ごとに発生していきます。
この記事では種類別の相場と金額を決める要素、治療前から治療後までの費用の内訳、そして保険や控除が使える条件までを整理しましたので、予算を立てる材料としてお役立てください。
歯列矯正の費用相場を種類別に見る
歯列矯正の費用を調べ始めると、記事によってまったく違う金額が並んでいて戸惑うことになります。
10万円台と書かれているものもあれば、160万円という数字が出てくるものもあり、どれが自分に当てはまるのか判断しづらいためです。
この幅は情報の食い違いによるものではなく、治療の中身が違えば金額も変わるという当然の結果として生じています。
まずは動かす範囲と装置の種類という2つの軸で全体像を把握すると、自分がどのあたりに位置するかが見えてきます。
種類別のおおよその目安を、次の表にまとめました。
表:歯列矯正の費用相場(装置と範囲別の目安)
| 装置の種類 | 全体矯正 | 部分矯正 |
|---|---|---|
| 表側のワイヤー矯正 | 50万〜110万円 | 10万〜70万円 |
| 裏側のワイヤー矯正 | 80万〜170万円 | 40万〜70万円 |
| ハーフリンガル矯正 | 70万〜130万円 | 35万〜65万円 |
| マウスピース矯正 | 50万〜120万円 | 10万〜60万円 |
同じ装置でも全体矯正と部分矯正で費用帯が大きく分かれており、金額を比べる前に自分の治療がどちらにあたるのかを知る必要があることが分かります。
全体矯正と部分矯正で費用帯が分かれる
費用を左右する最も大きな要素は、動かす歯の本数です。
歯を1本動かすのと、奥歯まで含めた歯列全体を動かすのとでは、必要な装置の量も治療にかかる期間もまったく違ってくるためです。
前歯を中心とした範囲だけを整える部分矯正は、数か月から1年程度で終わることが多く、費用も10万円台から60万円程度に収まります。
一方で奥歯の噛み合わせまで含めて動かす全体矯正では、1年半から3年程度かかり、費用も50万円から120万円程度が目安になります。
自分が気にしている歯並びが部分矯正で対応できる範囲なのかどうかは、見た目だけでは判断がつきません。
前歯の乱れの原因が奥歯の位置にある場合、部分矯正では根本的な改善につながらないこともありますので、範囲の判断は診断に委ねる必要があります。
装置の種類による違い
範囲が同じであっても、選ぶ装置によって金額は変わります。
装置の製作にかかる手間や、調整に必要な技術の水準が装置ごとに異なるためです。
歯の表面に装置を付ける表側のワイヤー矯正は、歴史が長く広く行われている方法で、費用としては比較的抑えられる傾向にあります。
歯面に3mm角ほどのブラケットを接着し細いワイヤーを通すこの装置はマルチブラケット装置と呼ばれ、日本中どこの矯正歯科でも用いられています[1]。
歯の裏側に装置を接着する方法は、外から見えにくい代わりに製作や調整の難度が上がるため、表側より高い金額が設定されています[1]。
見た目を優先するか費用を優先するかで選択が変わりますので、それぞれの目安を知ったうえで検討してみてください。
相場に幅が出る理由
同じ装置と同じ範囲であっても、提示される金額には差が生じます。
歯列矯正の多くは自由診療にあたり、料金を各医療機関がそれぞれ設定しているためです。
公定価格のような共通の基準は存在せず、装置代に何が含まれるかという範囲も医院ごとに異なります。
装置代だけを提示している医院と、検査料や保定装置まで含めた総額を提示している医院では、同じ数字でも意味がまったく違います。
さらに歯並びの状態によって治療の難度が変わり、その難度が金額に反映されることもあります。
相場はあくまで幅として受け止め、自分に当てはまる金額は見積もりで確認するという姿勢が欠かせません。
費用を決める4つの要素
金額の幅を生んでいる要素は、大きく4つに整理できます。
自分がどの条件に当てはまるかを把握できれば、提示された見積もりが妥当かどうかを判断する材料になります。
相談に行く前におおよその見当をつけておけば、説明も理解しやすくなります。
ひとつずつ確認していきましょう。
4つの要素を順に見ていきます。
動かす範囲
最も大きく影響するのが、どこまでの歯を動かすかという範囲です。
動かす歯の本数が増えるほど、装置の量も治療計画の複雑さも増していくためです。
前歯の数本だけを対象とする部分矯正であれば、装置も少なく期間も短く済みます。
奥歯を含めた全体矯正では、上下の噛み合わせまで設計し直すことになり、費用は倍以上になることもあります。
見た目が気になっているのが前歯であっても、その原因が奥歯の位置にある場合は全体矯正が必要になります。
自分の希望する仕上がりがどちらの範囲に収まるのかは、検査を受けて初めて判断されます。
装置の種類
範囲が決まったあとに関わってくるのが、装置の選択です。
装置ごとに製作の手間や調整に要する技術が異なり、それが金額に反映されるためです。
表側のワイヤー矯正は比較的抑えられ、裏側に接着するタイプは高くなる傾向にあります。
マウスピース矯正は装置の枚数によって金額が変わり、枚数に上限を設けたプランも存在します。
近年の永久歯列の治療では、透明な樹脂でできた取り外し式の矯正装置による治療も行われるようになりました[1]。
見た目の優先度や生活のしやすさとあわせて、費用の面からも比較してみてください。
治療の難易度
歯並びの状態そのものも、費用を左右します。
動かす距離が長い場合や複雑な動きが必要な場合、治療の工程が増えていくためです。
歯を並べるスペースが足りない場合は抜歯が検討され、その処置料が別に発生します。
わずかな骨格性の不正であれば歯の移動によってカモフラージュすることが可能とされていますが[1]、程度が著しく大きい場合は一般的な矯正治療の適応の範囲を越え、外科矯正治療が行われます[1]。
外科的な処置をともなう場合、費用の構造そのものが変わってきます。
難易度は自己判断できない部分ですので、検査の結果を踏まえて見積もりを受け取ることになります。
治療期間と通院回数
期間の長さも、費用に直結します。
通院のたびに調整料が発生する料金体系では、期間が延びるほど支払総額が積み上がっていくためです。
全体矯正では1年半から3年程度かかり、通院は数十回に及びます。
1回あたりの調整料が数千円であっても、期間全体では十数万円規模の負担になる計算です。
治療にかかる費用をあらかじめまとめて提示する方式であれば、期間が延びても追加の請求は発生しにくくなります。
期間と料金体系はセットで確認しておくと、最終的な支払額の見通しが立てられます。
治療前にかかる費用
歯列矯正の費用というと装置代を思い浮かべますが、実際には装置を付ける前の段階から支払いが始まります。
歯を動かす計画を立てるには、その前に口の中の状態を調べ、必要な処置を済ませておく必要があるためです。
この段階の費用は装置代に含まれる医院と、別途請求される医院に分かれており、見積もりを比べるときの差にもなります。
金額としては数万円規模ですが、総額に対する割合は小さくありません。
治療前に発生する3つの費用を順に確認していきましょう。
初診相談料
最初にかかるのが、相談の場そのものにかかる費用です。
歯並びの状態を見てもらい、治療の方針や費用の見通しについて説明を受ける時間に対して設定されているためです。
金額は無料から5,000円程度が目安で、無料相談を実施している医院も多くみられます。
この段階では簡単な視診と写真撮影にとどまり、詳しい診断は次の精密検査を経てから行われます。
無料であれば複数の医院を回りやすいため、比較検討の第一歩として活用できます。
相談だけで契約する必要はありませんので、話を聞いて持ち帰るという使い方をしてみてください。
精密検査・診断料
治療方針を決めるために欠かせないのが、精密検査です。
歯並びの乱れが歯の位置によるものか、あごの骨格によるものかで、必要な治療がまったく変わってくるためです。
矯正治療を開始するにあたっては詳細な検査が行われ、側面頭部エックス線規格写真という一般的な歯科医院にはない特別な撮影などが用いられます[1]。
この検査によって骨格・歯槽・機能のどこに問題点があるのかという成り立ちが明らかにされ、治療方針が決まります[1]。
費用は3万円から6万円程度が目安で、レントゲン撮影、口の中のスキャン、写真撮影、歯型の採取などが含まれます。
検査を受けたうえで治療を見送る判断もできますので、支払った費用が無駄になるわけではありません。
虫歯の治療や抜歯
口の中の状態によっては、矯正を始める前に別の処置が必要になります。
虫歯や歯周病があると、装置を付けたあとに治療のため矯正を中断せざるを得なくなるためです。
虫歯の処置は保険診療として行われることが多く、その分は自由診療である矯正費用とは別に発生します。
歯を並べるスペースが足りない場合は抜歯が検討され、1本あたり数千円から2万円程度の処置料がかかります。
横向きに生えた親知らずが治療の妨げになる場合、その抜歯も先に行われることがあります。
こうした処置は矯正費用の見積もりに含まれないことが多いため、必要かどうかを検査の段階で確認しておきましょう。
治療中にかかる費用
装置を付けてから外すまでの期間に発生するのが、費用の中心となる部分です。
装置代が最も大きな割合を占めますが、それだけで完結するわけではありません。
通院のたびに支払いが生じる料金体系もあり、期間の長さがそのまま総額に反映されることもあります。
さらに想定外の場面で追加の費用が発生する可能性も知っておく必要があります。
治療中にかかる3つの費用を確認していきましょう。
装置代
費用の大部分を占めるのが、装置そのものにかかる費用です。
歯を動かすための装置は一人ひとりの歯並びに合わせて作られ、治療計画の設計もこの費用に含まれるためです。
表側のワイヤー矯正では50万円から110万円程度、裏側では80万円から170万円程度が全体矯正の目安になります。
マウスピース矯正では装置の枚数が金額を左右し、全体矯正では30枚以上を作製することもあります。
歯面にブラケットを接着してワイヤーを通すマルチブラケット装置は、永久歯列で個々の歯を並べ直す目的として広く使われています[1]。
装置代として提示された金額に、次に挙げる調整料が含まれているかどうかは必ず確認しておきたい点です。
調整料と観察料
通院のたびに発生する費用も、総額を左右します。
歯が計画どおりに動いているかを確認し、必要に応じて調整を加える処置に対して設定されているためです。
金額は1回3,000円から10,000円程度が目安で、ワイヤー矯正では1か月に1回程度、マウスピース矯正では1〜3か月に1回程度の通院が続きます。
全体矯正が2年に及べば通院は20回を超え、調整料だけで10万円から20万円規模になることもあります。
治療にかかる費用をあらかじめまとめて提示する方式であれば、通院が増えても追加の請求は発生しません。
装置代の安さだけで比べると総額を見誤りますので、調整料はセットで確認しておきましょう。
装置の再作製や追加
治療の途中で、想定外の費用が発生することもあります。
歯の動き方には個人差があり、計画どおりに進まない場面が起こりうるためです。
矯正診療は検査、診断、治療の順に進みますが、経過に応じて再診断が行われることもあります[1]。
マウスピース矯正では歯型を取り直して装置を作り直す場面があり、追加作製が総額に含まれるかどうかは契約内容によって異なります。
ワイヤー矯正では装置が外れたり壊れたりした場合の修理費が発生することがあり、装置を紛失した場合の再作製費用も同様です。
こうした場面にいくらかかるのかを契約前に確かめておけば、想定外の請求に驚かずに済みます。
治療後にかかる費用
見積もりを受け取ったとき、その金額で支払いが終わると考えてしまいがちです。
しかし歯列矯正には歯を動かす期間のあとに、その位置を保つための期間が続きます。
動かし終えた歯は元の位置へ戻ろうとする性質があり、それを抑える装置と定期的な確認が必要になるためです。
この段階の費用が見積もりに含まれているかどうかで、総額は数万円から十数万円変わってきます。
治療後に発生する3つの費用を確認していきましょう。
保定装置の費用
治療が終わったあとには、リテーナーと呼ばれる保定装置を使います。
歯を支えている骨や歯ぐきが新しい位置にまだ慣れておらず、そのままでは元へ戻ろうとする力が働くためです。
保定装置には取り外しができる透明なタイプ、ワイヤーとプレートを組み合わせたタイプ、歯の裏側に細い針金を接着する固定式のタイプなどがあります。
費用は1万円から6万円程度が目安で、治療費に含まれる場合と別途請求される場合に分かれます。
上下どちらにも必要になることが多いため、片顎分の金額が提示されている場合は総額を確認しておきます。
紛失や破損による再作製にも費用がかかりますので、その扱いもあわせて聞いておきたいところです。
保定期間中の通院
保定の期間にも、通院にともなう費用が発生する場合があります。
歯の位置は少しずつ変化するため、自分では気づけないずれを定期的に確認してもらう必要があるためです。
通院の間隔は、装置を外してから1か月後、3か月後、6か月後と徐々に空いていき、その後は年に1回程度へ移っていく流れが一般的です。
1回あたり3,000円から5,000円程度の観察料が発生する医院と、治療費に含まれている医院に分かれます。
保定にかかる期間は歯を動かした期間と同程度が一つの目安とされており、全体矯正であれば数年に及びます。
矯正診療は検査、診断、治療の順に進み、経過に応じて再診断が行われることもありますので[1]、この期間の通院も治療の一部として計画に入れておきましょう。
後戻りしたときの再治療
歯並びが元に戻った場合の費用も、想定に入れておく必要があります。
保定装置の使用が途切れると歯が動き、時間をかけて元の状態へ近づいていくことがあるためです。
わずかなずれであれば部分的な再矯正で対応できることもありますが、大きく戻った場合はあらためて検査を受けて計画を立て直す流れになります。
再治療の費用は新たに発生し、当初の見積もりには含まれていません。
治療を受けた医院に保定の記録が残っていれば、経過を踏まえた判断がしやすくなります。
保定装置を指示どおりに使い続けることが、そのまま将来の出費を防ぐ行動になります。
料金体系によって総額は変わる
ここまで見てきた費用は、どの医院でも同じように請求されるわけではありません。
料金の設定方法には複数の考え方があり、どれを採用しているかによって支払いの形が変わってくるためです。
同じ治療内容でも、料金体系の違いによって総額が逆転することもあります。
見積書の金額だけを見比べても比較にならないのは、この構造があるからです。
3つの観点から確認していきましょう。
総額制と処置ごとの支払い
料金体系は大きく2つの方式に分かれます。
治療にかかる費用を最初にまとめて提示する方式と、処置のたびに支払う方式です。
総額制では費用があらかじめ確定するため、治療期間が延びても追加の請求が発生しにくくなります。
処置ごとに支払う方式は初期の負担が軽い一方、通院が増えるほど支払総額が積み上がっていきます。
歯列矯正は期間が読みにくく、当初の見込みより長引くことも起こりますので、この差は無視できません。
期間が不確実な治療ほど、総額が確定する方式のほうが家計を管理しやすいと考えられます。
見積もりで確認する項目
見積書を受け取ったら、金額より先に含まれている範囲を項目ごとに確かめます。
同じ80万円でも、検査料と保定装置まで含む金額と装置代だけの金額では意味がまったく違うためです。
確認したいのは、初診相談料、精密検査・診断料、装置代、通院ごとの調整料、保定装置の費用、装置の再作製費用の6項目になります。
抜歯が必要な場合の処置料と、保定期間中の観察料も加えて確認しておくと、総額の全体像が把握できます。
同じ項目を複数の医院に質問して並べれば、金額の差がどこから生まれているのかが見えてきます。
装置代が安くても他の項目が別料金であれば総額で上回ることがありますので、必ず同じ土俵で比べてください。
治療を中断した場合の精算
途中で治療をやめる可能性についても、確認しておきたいところです。
転居や仕事の事情など、数年にわたる治療のあいだには想定外の変化も起こりうるためです。
総額制の医院では、進行状況に応じて未実施分が返金される規定を設けている場合があります。
処置ごとに支払う方式では、すでに受けた処置の分を支払う形になり、返金の対象は生じにくくなります。
デンタルローンを利用している場合、治療をやめても支払いは残るため、契約先への確認が別途必要です。
契約書の返金規定に目を通してから署名する習慣が、いざというときの選択肢を残します。
保険が使えるケース
矯正治療には保険が使えないという説明を、どこかで目にした方は多いはずです。
その理解は大筋では正しいのですが、例外が明確に定められている点はあまり知られていません。
該当する方にとっては自己負担の桁が変わる話ですので、条件を確認しておく価値があります。
自分が対象になるかどうかは検査を受ければ判断してもらえますが、事前に知識として持っておけば相談の場で質問できます。
3つの観点から整理していきましょう。
歯列矯正は原則として自由診療
まず前提として、歯並びを整える目的の矯正治療は原則として自由診療にあたります。
健康保険は病気やけがの治療に適用される制度であり、歯並びの改善は原則としてその枠に含まれないためです。
自由診療では料金を各医療機関が設定するため、同じ治療内容でも医院によって金額が異なります。
公定価格のような共通の基準が存在しないからこそ、複数の医院で見積もりを取って比べる作業が必要になります。
お住まいの自治体で医療費の助成を受けている場合でも、対象になるのは保険診療の窓口負担分に限られます。
例外に該当しない場合は、この前提のもとで費用を組み立てていくことになります。
保険が適用される限られたケース
一部の不正咬合については、健康保険を使った矯正治療が認められています。
歯並びの問題が病気や生まれつきの疾患に起因する場合、治療の必要性が医学的に認められるためです。
骨格のずれが著しく大きく、下あごを切断して動かすといった外科的手法を併用した外科矯正治療が必要な場合、この骨格性不正が大きい病気は顎変形症と呼ばれ、一部の病院で保険診療の対象となります[1]。
顎変形症のほかにも、唇顎口蓋裂やダウン症候群、鎖骨・頭蓋骨異形成など、国の定める42の疾患に起因する不正咬合の矯正歯科治療には一部の病院で保険が適用されます[1]。
噛み合わせが大きくずれていて日常生活に支障を感じている方は、こうしたケースに該当する可能性を一度確認しておく価値があります。
該当すれば自己負担は大きく変わりますので、治療を始める前の確認が欠かせません。
対応できる医療機関は限られる
保険が適用される場合でも、どの医院でも受けられるわけではありません。
保険診療として矯正治療を行うには、施設として一定の要件を満たしている必要があるためです。
保険が適用される医療機関は限られており、その施設リストは日本矯正歯科学会のホームページで確認できるとされています[1]。
近所の歯科医院で相談しても、保険での対応ができないと案内される場合があります。
該当する可能性を感じたら、対応できる医療機関を先に調べてから相談に進むほうが確実です。
自由診療として治療を始めてしまうと、あとから保険に切り替えることは基本的にできませんので、順序を間違えないよう注意しましょう。
医療費控除と支払い方法
保険の対象にならない場合でも、負担を軽くする手段は残されています。
支払った医療費に応じて税の負担が軽くなる制度と、支払いを分散させる仕組みがあるためです。
特に医療費控除は、条件を満たせば数万円単位で戻ってくる可能性がある制度です。
知らないまま治療を終えると、受けられたはずの控除を逃すことにもなりかねません。
3つの観点から確認していきましょう。
医療費控除の考え方
歯列矯正の費用は、条件を満たせば医療費控除の対象になります。
国税庁は、受ける人の年齢や矯正の目的などからみて歯列矯正が必要と認められる場合の費用は医療費控除の対象になるとしているためです[2]。
その例として、発育段階にある子どもの成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正が挙げられています[2]。
一方で、同じ歯列矯正でも容ぼうを美化するための費用は対象にならないと明記されています[2]。
子どもの矯正は必要性が認められやすい一方、大人の矯正は見た目を目的とした治療と判断される可能性があります。
噛み合わせの改善という目的を診断書などで示せるかどうかが分かれ目になりますので、医院に相談してみてください。
対象になる費用とならない費用
制度の対象になるのは、支払ったすべての費用ではありません。
対象となるのは、歯科医師による診療または治療の対価にあたる支出だからです。
矯正の治療費や検査料に加え、通院のために公共交通機関を利用した交通費も対象に含められます。
自家用車で通院した場合のガソリン代や駐車場代は、診療の対価にあたらないため対象外になります。
歯科ローンを利用して支払った場合も、契約書の写しなどを添えることで対象にできる仕組みがあります。
判断に迷う支出は領収書を残したうえで税務署や医院に確認しておくと、申告のときに慌てずに済みます。
分割払いとデンタルローン
支払い方によっても、家計への負担は変わってきます。
一度にまとまった金額を用意しなくても、月々の負担に置き換えて始められる仕組みがあるためです。
医院が独自に設けている分割払いは金利がかからない設定が多く、治療期間に合わせて回数が決められます。
信販会社を通すデンタルローンは支払回数を長く取れる一方、金利や手数料が上乗せされます。
金額が大きい治療ほど手数料の総額も膨らみますので、月々の金額だけでなく最終的にいくら払うのかを確認しておきましょう。
支払いに不安がある場合は契約前に相談すれば、無理のない進め方を一緒に考えてもらえます。
費用で後悔しないための進め方
ここまで費用の内訳と制度を見てきましたが、最後に大切なのは進め方の順序です。
同じ情報を持っていても、どの順番で動くかによって結果が変わってくるためです。
装置を先に決めてしまう、1軒目で契約してしまうといった進め方は、あとから選択肢を狭めることにつながります。
数十万円から百万円規模の判断ですので、時間をかけて進めても損はありません。
3つの手順を順に確認していきましょう。
検査を受けてから比べる
最初に踏むべきなのは、精密検査を受けるという手順です。
歯並びの乱れが歯の位置によるものか骨格によるものかで、必要な治療も費用もまったく変わってくるためです。
矯正治療を開始するにあたっては詳細な検査が行われ、骨格・歯槽・機能のどこに問題点があるのかという成り立ちが解明されてから治療方針が決まります[1]。
自分の治療が部分矯正で対応できるのか全体矯正が必要なのか、抜歯や外科的な処置が必要なのかが、この段階で明らかになります。
装置の種類を先に決めてから検査を受けると、適応外だと分かった時点で計画をやり直すことになります。
費用の見通しを立てるうえでも、検査は最初に済ませておく工程だと考えてみてください。
複数の医院で見積もりを取る
検査の結果を踏まえたうえで、複数の医院で見積もりを取ります。
同じ歯並びでも、提案される治療範囲や装置の選択によって総額が変わってくるためです。
2軒以上で相談を受け、同じ項目を質問して並べると、金額の差がどこから生まれているかが見えてきます。
診断された内容、提案された治療範囲と装置、総額と内訳、期間の見通しを同じ形式で記録しておきます。
複数の医院で共通して指摘された点があれば、それは装置の違いを超えて優先すべき課題だと考えられます。
手間はかかりますが、数年間を預ける相手を選ぶ時間としては見合うものだといえます。
説明を書面で受け取る
聞いた内容は、必ず書面で残しておきます。
口頭の説明だけでは、あとから食い違いが生じても確認する手段がないためです。
治療計画書と見積書を受け取り、含まれている項目と含まれていない項目を確かめます。
治療を途中でやめた場合の精算規定も、契約書の該当箇所に目を通しておきましょう。
その場での契約を促されたり期間限定という理由で判断を急がされたりする場面では、持ち帰って検討すると伝えて構いません。
契約や費用でトラブルが生じた場合には、消費生活センター等が消費生活全般の苦情や問い合わせを専門の相談員が受け付けており、消費者ホットライン188から最寄りの窓口につながります[3]。
歯列矯正の費用に関するよくある質問
Q:歯列矯正で最も安く済む方法は何ですか?
A:前歯を中心とした部分矯正であれば、10万円台から対応できる場合があります。
ただし部分矯正では奥歯の噛み合わせは対象にならないため、必要な範囲は診断によって決まります。
安さだけで範囲を狭めると、途中で全体矯正への切り替えが必要になることもあります。
Q:装置代のほかに何がかかりますか?
A:治療前の初診相談料と精密検査・診断料、治療中の調整料、治療後の保定装置と観察料が発生します。
抜歯が必要な場合の処置料や、装置の再作製費用が加わることもあります。
これらが総額に含まれるかどうかは医院によって異なりますので、見積もりで確認してください。
Q:保険は使えますか?
A:原則として自由診療ですが、例外があります。
骨格性の不正が大きい顎変形症では、一部の病院で保険診療の対象になります[1]。
国が定める42の疾患に起因する不正咬合の矯正歯科治療にも適用されますが、医療機関は限られます[1]。
Q:医療費控除の対象になりますか?
A:年齢や矯正の目的からみて必要と認められる場合は対象になります[2]。
発育段階にある子どもの矯正はその例として挙げられており、認められやすい傾向があります[2]。
一方で容ぼうを美化するための費用は対象になりませんので[2]、目的の示し方が分かれ目になります。
まとめ
歯列矯正の費用は、装置の種類と動かす範囲によって10万円台から160万円程度まで幅があります。
金額を決めるのは、動かす範囲、装置の種類、抜歯や外科をともなう難易度、そして治療期間の4つの要素です。
費用は治療前の検査料、治療中の装置代と調整料、治療後の保定装置と観察料という3つの段階に分かれて発生します。
料金体系には総額を先に確定させる方式と処置ごとに支払う方式があり、期間が読みにくい治療では前者のほうが管理しやすくなります。
歯列矯正は原則として自由診療ですが、顎変形症や国が定める42の疾患に起因する不正咬合には保険が適用されます[1]。
年齢や矯正の目的からみて必要と認められる場合は医療費控除の対象になりますので[2]、領収書と通院の記録は残しておきましょう。
自分の治療がどの範囲に当てはまるかは検査を受けて初めて分かりますので[1]、まずは検査を受けて見通しを立てるところから始めてみてください。
参考文献
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「不正咬合の治療法の概要」(最終閲覧日:2026年9月2日)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-06-002.html
[2] 国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」(最終閲覧日:2026年9月2日)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
[3] 国民生活センター「全国の消費生活センター等」(最終閲覧日:2026年9月2日)