前歯の矯正は市販のマウスピースでできる?部分矯正という選択肢

前歯の歯並びを、市販のマウスピースで安く整えられないかと探していませんか?
市販されているマウスピースは歯ぎしりの緩和やスポーツ時の歯の保護を目的とした製品で、歯を動かして並びを整える装置ではありません。
ただし前歯だけを動かす部分矯正であれば、全体を動かす場合より費用と期間を抑えられるケースがあり、症状によっては半年ほどで変化が見込めることもあります。
この記事では市販品で整えられない理由、前歯の悩み別に見た部分矯正の適応、費用と期間の目安、負担を抑えて治療を受ける方法まで整理しますので、費用を理由にためらっている方はぜひ参考にしてください。
前歯の矯正は市販のマウスピースでできる?
写真に写った自分の口元が気になって、笑うときに手で隠す癖がついてしまったという方もいるのではないでしょうか。
矯正の見積もりを見て金額に驚き、通販サイトで数千円のマウスピースを探し始めたという流れは、決して珍しいことではありません。
先にお伝えすると、市販のマウスピースで前歯の並びを整えることはできないと考えておいてください。
これらの製品は歯を今の位置で保護するために作られており、動かすという役割を持たないためです。
ただし、費用を抑えたいという目的そのものをあきらめる必要はありません。
前歯だけを動かす部分矯正という方法があり、全体を動かす場合より負担を軽くできる可能性があります。
ここではまず、市販品で整えられない理由を4つの視点から見ていきます。
市販のマウスピースは歯を動かす装置ではない
市販されているマウスピースは、そもそも用途がまったく違う製品です。
多くは就寝中の歯ぎしりによる負担を和らげたり、スポーツ中の衝撃から歯を守ったりする目的で作られているためです。
これらは歯を現在の位置で保護することを役割としており、動かすための設計はされていません。
矯正で使う装置は、歯をどの方向へどれだけ動かすかを計算したうえで、形状が細かく作り込まれています。
同じ「マウスピース」という名前でも、守る道具と動かす装置ではまったく別のカテゴリーにあたります。
名前が似ているという理由で代用できると考えず、目的の違う製品だと理解しておきましょう。
画一的な形では前歯の動きを設計できない
作り方の違いも、決定的な差を生んでいます。
市販品は決まった形で大量に生産されており、購入した人の歯並びに合わせて作られているわけではないためです。
歯科医院で作る装置は、一人ひとりの歯型をもとに、どの歯にどの方向から力を加えるかまで設計されています。
同じ「前歯が気になる」という悩みでも、隙間があるのか重なっているのか、傾いているのかで必要な動きは変わります。
既製品を口に入れても、どの歯にどう力がかかるか分からないまま押される状態になってしまいます。
一人ひとりに合わせた設計があって初めて意図した動きが生まれるという点は、押さえておきたいところです。
前歯は見える位置だからこそ失敗が残る
前歯という部位ならではの事情もあります。
前歯は会話や笑顔のたびに人目に触れる場所であり、わずかな変化でも印象を大きく左右するためです。
奥歯であれば多少の変化に気づかないこともありますが、前歯では小さなずれもはっきり見えてしまいます。
自己流の力で前歯だけが動いてしまえば、以前より気になる状態になってしまう可能性も考えられます。
改善を期待して始めたのに、かえって隠したくなる口元になってしまったという結果は避けたいところです。
見える位置だからこそ、計画に基づいた動かし方が求められる部位だといえます。
前歯だけなら費用を抑える方法がある
市販品を探している背景には、費用の負担があるはずです。
矯正治療は一部の例外を除いて公的医療保険の対象外である自由診療にあたり、まとまった金額が必要になるためです[1]。
ただし歯を動かす範囲を前歯に限れば、全体を動かす場合より費用も期間も抑えられる可能性があります。
軽度の症状であれば、半年から1年ほどで見た目の変化を感じられるケースもあるようです。
医療費控除や分割払いといった仕組みを組み合わせれば、一度に用意する金額をさらに小さくできます。
安く整えたいという目的であれば、市販品より確実で現実的な方法が残されています。
市販で手に入るマウスピースの4種類
ひとくちに市販のマウスピースといっても、性質の異なる製品が混ざっています。
どれも同じように見えるため、区別がつかないまま検討してしまいがちですよね。
大きく分けると、歯ぎしり用、スポーツ用、歯並びの改善を掲げる通販製品、そして海外から取り寄せるアライナーの4種類があります。
目的も入手経路も異なり、伴うリスクの性質もそれぞれ変わってきます。
自分が検討している製品がどれに当たるのかを知っておけば、判断を誤りません。
ここでは4つの種類を、順に確認していきます。
歯ぎしり用のナイトガード
薬局や通販で最もよく見かけるのが、歯ぎしり対策として販売されている製品です。
就寝中の食いしばりによって歯にかかる強い力を和らげることを目的に作られているためです。
お湯で温めて自分の歯型に合わせる形式のものもあり、手軽に入手できる点が特徴といえます。
歯を保護する役割ははたしますが、前歯を動かすための力を設計しているわけではありません。
歯科医院で作るナイトガードも同じ目的の装置で、こちらは歯型をとって精密に作られます。
歯ぎしりが気になる場合の選択肢にはなりますが、歯並びを整える手段としては役割が異なります。
スポーツ用のマウスガード
競技中に装着する製品も、市販品として広く流通しています。
接触の多いスポーツで歯や口の中を衝撃から守ることを目的に作られているためです。
厚みがあり衝撃を吸収する素材でできている点が、歯ぎしり用とも異なる特徴になります。
歯を包み込む形状という点では矯正装置と似て見えますが、力を加える設計にはなっていません。
競技中の安心のために使うものであり、日常的に長時間装着し続ける前提でも作られていません。
用途が明確に分かれている製品のため、歯並びの改善に転用することはできないと考えてください。
通販で歯並びの改善を掲げる製品
インターネット上には、歯並びを整えられると案内する製品も見られます。
低価格で手軽に始められると宣伝されており、費用の負担を抱えている方の目に留まりやすいためです。
こうした製品の多くは既製品で、個々の歯並びに合わせて作られたものではありません。
宣伝されている効果に科学的な裏づけがあるかどうかは、購入する側では確認が難しいのが実情です。
購入前に歯科医師の診察を受ける仕組みがないため、自分の症状に合うかどうかも判断できません。
価格の安さだけで選ばず、誰がどのように設計した製品なのかを確かめる視点を持っておきましょう。
海外から個人輸入するアライナー
海外の通販サイトから取り寄せるという方法を検討する方もいます。
日本では手に入らない製品が安く購入できるように見えるため、選択肢として浮かびやすいためです。
ただし海外の製品は、日本国内で承認や認証を受けていない場合があります。
医療機器を個人が輸入する場合、自分自身で使用する目的に限られるというルールが定められています[2]。
数量や品目によっては、地方厚生局への手続きが必要になるケースもあります[2]。
通常の買い物とは仕組みが異なるため、この点は後の章で詳しく整理していきます。
市販品を前歯の矯正に使うと起こり得ること
使ってみて効果がなければやめればいい、と考えている方もいるかもしれません。
しかし歯に関わる問題は、やめれば元に戻るという性質のものではない点に注意が必要です。
設計されていない力が歯に加わると、動いてほしくない歯まで動いてしまう可能性があります。
歯は互いに支え合って並んでいるため、一部が動けば周囲にも影響が及んでいきます。
さらに装置を長時間装着することで、清掃の面でも新たな問題が生まれます。
何が起こり得るのかを知っておけば、判断の材料がそろいます。
ここでは想定される5つの問題を、順に見ていきます。
前歯だけが不自然に動いてしまう
最も起こりやすいのは、意図しない形での移動です。
既製品は歯列全体を均一に押さえる形状のため、力が集中する場所を制御できないためです。
矯正では動かしたい歯と、その土台として動かしたくない歯を分けて設計します。
市販品ではこの区別がなく、押されやすい前歯だけが先に動いてしまう可能性があります。
隙間が閉じたように見えても、歯が傾いただけで根の位置は変わっていないという状態も考えられます。
見た目が一時的に変化しても、それが望ましい動きとは限らないという点を知っておいてください。
奥歯の噛み合わせが崩れる
影響は前歯だけにとどまりません。
前歯の位置が変われば上下の当たり方も変わり、奥歯にかかる力の配分にも影響が及ぶためです。
矯正治療では前歯を動かす場合でも、奥歯を含めた噛み合わせ全体の調和を確認しながら進めます。
前歯だけが動いた結果、噛んだときに奥歯が強く当たるようになるという事態も起こり得ます。
特定の歯に力が集中すれば、その歯への負担が大きくなっていきます。
見た目のために始めたことが、噛む機能に影響してしまう可能性は避けたいところです。
歯を支える組織に負担がかかる
歯そのものより、支えている組織への影響も見過ごせません。
歯は歯根膜という組織を介して顎の骨に支えられており、力の加え方によって周囲の状態が変化するためです[3]。
矯正では弱い力を持続的に加えることで、組織に無理のない範囲で歯を移動させていきます。
強すぎる力や不規則な力が加わると、歯を支える組織に負担がかかることが考えられます。
痛みや歯の動揺として自覚される場合もあれば、自覚がないまま進行することもあります。
自分では判断できない範囲の変化が起こり得るという点は、押さえておきたいところです。
むし歯や歯周組織のトラブルにつながる
装置を長時間装着すること自体にも、注意すべき点があります。
歯を覆った状態では唾液が行き渡りにくくなり、汚れが残りやすい環境が生まれるためです。
歯科医院で行う矯正では、通院のたびに口の中の状態を確認し、清掃の指導も受けられます。
市販品を自己流で使う場合は、そうした確認の機会がないまま時間だけが過ぎていきます。
汚れが残ったまま装着を続ければ、むし歯や歯周組織の炎症につながる可能性も考えられます[3]。
歯並びを整えるつもりが、別の治療が必要な状態を招いてしまう展開は避けたいところです。
元の状態より悪化する可能性がある
最も避けたいのは、始める前より状態が悪くなることです。
いったん動いてしまった歯を元に戻すには、改めて矯正治療が必要になるためです。
計画のない移動によってずれが生じれば、その修正から始めることになります。
軽度だったはずの症状が悪化し、部分矯正では対応できなくなるというケースも考えられます。
結果として全体矯正が必要になれば、費用も期間も当初より大きくなってしまいます。
安く済ませるつもりが高くつくという逆転を避けるためにも、自己流の使用は控えておきましょう。
海外から個人輸入する場合のリスク
海外のサイトなら安く手に入る、という情報を目にした方もいるかもしれません。
価格だけを見れば魅力的に映りますが、通常の買い物とは仕組みが違う点を理解しておく必要があります。
医薬品や医療機器は人の健康に直接影響するため、品質や安全性が確認された製品だけが国内で流通するよう法律で規制されています[2]。
海外から取り寄せる場合、その確認を経ていない製品が手元に届く可能性があります。
さらに、万が一のときに使える救済の仕組みも対象外となります。
制度上の位置づけを知っておけば、判断の材料がそろいます。
ここでは個人輸入に伴う4つのリスクを整理していきます。
国内で承認されていない製品が届く可能性
まず知っておきたいのは、製品の品質に関する点です。
医療機器は品質、有効性、安全性について科学的なデータに基づく確認がなされた製品だけが国内で流通するよう規制されているためです[2]。
海外から直接取り寄せた製品は、この確認を経ていない場合があります。
素材の安全性や製造の管理体制について、購入する側で確かめる手段はほとんどありません。
長時間口の中に入れるものだからこそ、素材の情報が確認できない状態は避けたいところです。
価格の安さの背景に何があるのかを考える視点を持っておきましょう。
個人輸入には手続きのルールがある
制度上の手続きについても、押さえておく必要があります。
一般の個人が医療機器を輸入できるのは、自分自身で使用する場合に限られているためです[2]。
個人輸入した製品を他の人に売ったり譲ったりすることは認められていません[2]。
原則として地方厚生局に必要書類を提出し、確認を受ける仕組みが設けられています[2]。
一定の範囲内であれば税関での確認によって通関できる特例もありますが、品目や数量によって扱いが変わります[2]。
購入前に、自分が行おうとしていることがどの枠組みに当たるのかを確認しておいてください。
健康被害が起きても救済制度の対象外
もしもの場合に使える仕組みについても、違いがあります。
国内で承認された医薬品や医療機器による健康被害には救済制度が設けられていますが、個人輸入した未承認の製品はその対象になりません。
体調に問題が生じても、公的な救済を受けられない状態で対処することになります。
海外の販売元に連絡を取ろうとしても、言語や時差の壁で対応が進まないことも考えられます。
治療のために別の費用が必要になれば、その負担も自分で抱えることになります。
安く手に入れたつもりが、結果的に大きな負担につながる可能性を知っておきましょう。
返金や解約をめぐるトラブル
金銭面でのトラブルも、実際に起こり得ます。
海外の事業者との取引では、国内の消費者保護の仕組みが及びにくい場合があるためです。
商品が届かない、思っていたものと違う、返品に応じてもらえないといった相談は少なくありません。
定期購入の契約になっていることに気づかず、解約の手続きで苦労するケースも考えられます。
契約に関して困った場合は、独立行政法人国民生活センターや自治体の消費生活センターに相談できます[4]。
購入前に販売元の所在地と連絡手段を確認しておくだけでも、リスクを減らせます。
前歯の悩み別|部分矯正で治せるかの目安
市販品が使えないと分かったところで、次に知りたいのは現実的な選択肢ですよね。
前歯だけを動かす部分矯正であれば、全体を動かす場合より負担を抑えられる可能性があります。
ただし、どんな症状でも部分矯正で対応できるわけではありません。
対応しやすいのは、奥歯の噛み合わせを大きく変える必要がなく、前歯の移動だけで見た目が整うケースです。
自分の症状がどのタイプに近いかを知っておけば、相談に行くときの見通しも立てやすくなります。
以下はあくまで目安であり、最終的な判断は検査を受けたうえで歯科医師が行います。
ここでは前歯の悩みを5つに分けて、それぞれの目安を見ていきます。
前歯の隙間が気になる場合
前歯の間に隙間がある状態は、部分矯正で対応しやすいとされる代表例です。
隙間を閉じる動きは前歯の移動だけで完結しやすく、奥歯の噛み合わせを変える必要が少ないためです。
前歯の中央に隙間がある状態は正中離開と呼ばれ、隙間が2〜3ミリ程度であれば対応できる場合が多いとされています。
見た目の変化が分かりやすく、比較的短い期間で結果を実感しやすい点も特徴といえます。
一方で、隙間が歯列全体に広がっている場合や、隙間の原因が奥歯側にある場合は範囲が広がります。
前歯だけに限られた隙間かどうかが、判断の一つの目安になります。
前歯が少し重なっている場合
前歯が少しだけ重なっている状態も、部分矯正の対象になり得ます。
軽度の重なりであれば、歯を並べるためのわずかなスペースを作るだけで整えられる場合があるためです。
スペースの作り方としては、歯の側面をごく薄く削って隙間を確保する方法がとられることもあります。
前歯が1〜2本、少しねじれている程度であれば対応できるケースが多いようです。
ただし重なりが大きい場合は、必要なスペースが前歯の範囲だけでは確保できません。
どの程度の重なりまで対応できるかは、口の中の状態を見なければ判断できない部分です。
前歯が少し前に出ている場合
前歯が前方に傾いている状態も、程度によっては部分矯正で対応できます。
歯の傾きが原因であれば、前歯を後方へ動かすスペースを確保することで改善が見込めるためです。
前歯が2〜4本、軽く前に出ている程度であれば対象になりやすいとされています。
一方で、顎の骨そのものの位置関係に大きな不調和がある場合は、前歯を動かしても根本的な改善につながりません。
歯の傾きが原因なのか骨格が原因なのかは、レントゲン撮影などの検査によって初めて判断できます。
見た目が似ていても原因が異なるため、自己判断で決めつけないでください。
過去の矯正から後戻りした場合
以前に矯正を受けたものの、前歯が元に戻ってきたという方もいます。
保定装置の使用が途中で途切れると、動かした歯が元の位置へ戻ろうとする性質があるためです。
一度整えた歯列の一部が戻った状態であれば、移動する距離が短く済む場合があります。
前歯のわずかなねじれや隙間が再び現れたという程度であれば、対応しやすいケースといえます。
ただし後戻りの程度が大きい場合や、噛み合わせ全体が崩れている場合は範囲が広がります。
過去の治療内容を伝えられるよう、当時の資料が残っていれば持参すると相談がスムーズです。
部分矯正では対応できないケース
一方で、前歯だけの治療では対応できない状態もあります。
奥歯を含めた噛み合わせに問題がある場合、前歯だけを動かしても機能面が改善しないためです。
歯が並ぶスペースが大きく不足している場合は、抜歯を含めた全体的な計画が必要になります。
顎の骨格に大きな不調和がある場合は、外科的な処置が検討されることもあります。
部分矯正で始めたものの途中で全体矯正に切り替え、かえって費用と期間が増えたという例も報告されています。
見た目だけで判断せず、検査を受けたうえで適応かどうかを確認することが遠回りを避ける道になります。
前歯だけの部分矯正にかかる費用と期間
実際にいくらかかるのかが見えなければ、検討のしようがありませんよね。
金額の見通しが立って初めて、市販品との比較も現実的なものになります。
部分矯正は動かす範囲が限られるぶん、全体矯正より費用も期間も抑えられる傾向にあります。
ただし医療機関によって料金の設定が異なり、症状によっても必要な工程が変わってきます。
以下に示す数値は一般的な目安であり、公的な統計として定められたものではありません。
見通しを立てる材料として、参考にしてみてください。
費用の目安と幅が出る理由
マウスピースを使った部分矯正の費用は、およそ10万円から60万円が目安とされています。
矯正治療は自由診療にあたり、料金は各医療機関が独自に設定できるためです[1]。
動かす歯の本数、必要なマウスピースの枚数、治療の難易度によって金額が変わってきます。
上下の両方を治療するか、片方だけかによっても差が生まれます。
同じ「前歯だけ」という説明でも、含まれる範囲が医療機関によって違う場合もあります。
金額だけを比べず、どこまでの治療が含まれるのかを確認したうえで判断してください。
期間の目安
治療にかかる期間は、全体矯正より短く済む傾向があります。
動かす歯の本数が少なく、移動させる距離も短いため、必要な工程が少なくて済むためです。
早ければ半年ほど、平均すると10か月程度、遅くとも1年以内という記載が多く見られます。
全体矯正では2年前後かかることもあるため、期間の差は小さくありません。
結婚式や就職活動など、目標とする時期がある方にとっては選びやすい選択肢といえます。
ただし症状によって幅があるため、自分のケースでの見通しは検査後に確認しておきましょう。
「前歯だけ」でも装置は奥歯まで覆う
誤解されやすい点として、装置の形状があります。
前歯だけを動かす場合でも、マウスピース自体は奥歯まで覆う形で作られるためです。
奥歯をしっかり押さえることで、前歯を動かすための土台が安定するという仕組みになっています。
前歯の部分だけの小さな装置を想像していた方は、実物を見て意外に感じるかもしれません。
装着感は全体矯正の装置と大きく変わらないと考えておいたほうが、始めてからのずれが生まれません。
「前歯だけ」というのは動かす範囲を指す言葉だと理解しておきましょう。
途中で全体矯正に切り替わる場合がある
計画が変わる可能性についても、知っておきたいところです。
治療を進めるなかで、前歯の移動だけでは目標に届かないと判断されることがあるためです。
その場合は全体矯正へ切り替えることになり、費用も期間も追加で必要になります。
部分矯正の安さだけを見て契約し、結果的に当初の想定を上回ったという例も見られます。
切り替えが生じた場合の費用の扱いは、医療機関ごとに定めが異なります。
契約前にこの点を確認しておけば、後から慌てずに済みます。
費用を抑えながら治療を受ける4つの方法
部分矯正でも十万円単位の金額になるとなると、まだ現実的に感じられないかもしれません。
ただ、提示された総額をそのまま用意しなければ始められないというわけではありません。
負担を軽くする手段は、治療範囲の選び方、税制上の仕組み、支払い方の工夫、医療機関の選び方の4方向に分かれます。
いずれも特別な条件を必要とせず、多くの方が検討できる範囲のものです。
組み合わせて考えれば、実際に用意する金額は想像より小さくできる場合があります。
市販品に頼るより確実な道が残されているという点を、あらためて知っておいてください。
ここでは費用を抑える4つの方法を、順に見ていきます。
部分矯正で対応できるか確認する
まず確かめたいのは、そもそも部分矯正の対象になるかどうかです。
動かす範囲を前歯に限れば、全体を動かす場合より費用も期間も抑えられる可能性があるためです。
自分では重度だと思っていた状態が、検査を受けたら部分矯正で対応できると分かるケースもあります。
逆に軽いと思っていた症状が、奥歯の噛み合わせに問題を抱えていたという場合もあります。
いずれにしても、適応かどうかは検査を受けなければ分かりません。
判断の材料を得るという目的だけでも、一度相談してみる価値があります。
医療費控除で税金の一部が戻る場合がある
税制上の仕組みも、負担を軽くする手段のひとつです。
医療費控除は1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告によって所得税の一部が戻る仕組みだからです[5]。
歯列矯正については、受ける人の年齢や矯正の目的からみて必要と認められる場合の費用が対象になると示されています[6]。
一方で、容ぼうを美化することを目的とした矯正の費用は対象になりません[6]。
見た目の改善だけを目的とする場合は対象外となるため、自分の治療がどちらに当たるかの確認が必要です。
判断が難しい部分のため、担当の歯科医師や税務署に相談してみてください。
分割払いやデンタルローンを使う
まとまった資金を一度に用意できない場合は、支払い方を分ける方法があります。
分割払いには医療機関が独自に行うものと、信販会社を介するデンタルローンの2種類があるためです。
医療機関独自の分割は手続きが簡単な場合が多く、デンタルローンは長期の返済期間を設定できる傾向があります。
月々の負担を小さくすることで、治療を始めるハードルを下げられます。
ただしデンタルローンでは金利や手数料が加わり、総支払額は現金払いより大きくなります。
契約前に総支払額を確認し、無理のない範囲かどうかを見極めておきましょう。
無料カウンセリングで複数を比較する
医療機関の選び方も、費用に直結する要素です。
自由診療では料金の設定が医療機関ごとに異なり、同じ内容でも金額に差が生まれるためです[1]。
初回のカウンセリングを無料としている医療機関も多く、契約せずに話だけ聞くことができます。
2〜3か所で相談し、提示された治療計画と金額を比べたうえで決めたという方も少なくありません。
見積もりを受け取ったら、検査料、通院ごとの調整料、治療後の保定装置の費用まで含まれているかを確認してください。
その場で契約を求められた場合は、持ち帰って検討したいと伝えて構いません。
すでに市販のマウスピースを使ってしまった場合
ここまで読んで、すでに購入して使っていたと不安になった方もいるかもしれません。
自分を責める必要はありませんし、慌てて極端な行動をとる必要もありません。
まず行いたいのは、使用をいったん止めて口の中の状態を確認することです。
前歯の位置が変わっていないか、噛み合わせに違和感がないかを鏡と実際の感覚で確かめてみてください。
上下の歯を軽く噛み合わせたとき、以前と当たり方が違うと感じるようであれば、変化が起きている可能性があります。
歯が動いたように見えなくても、自分では気づけない範囲の変化が生じている場合もあります。
そのうえで、できるだけ早く歯科医院で診てもらうことをおすすめします。
使用していた事実は隠さず、どんな製品をどのくらいの期間使っていたかを正直に伝えてください。
正確な情報がなければ、変化の原因を特定できず適切な判断ができなくなってしまいます。
購入した製品が手元にあれば持参すると、素材や形状を確認してもらえる場合もあります。
痛みや歯の動揺、歯茎の腫れといった症状がある場合は、通院の予約を待たずに連絡して構いません。
短期間の使用であれば大きな変化が生じていないことも多く、確認して安心できるケースも少なくありません。
万が一変化が生じていたとしても、早い段階で分かれば対処の選択肢は広く残ります。
放置して時間が経つほど、修正に必要な期間も費用も大きくなっていきます。
不安を抱えたまま使い続けるより、一度専門家に見てもらうほうが確実に前へ進めます。
契約に関して困っている場合は、独立行政法人国民生活センターや自治体の消費生活センターに相談するという方法もあります[4]。
前歯の矯正と市販のマウスピースに関するよくある質問
Q1. 市販のマウスピースで前歯は治りますか?
市販のマウスピースは歯ぎしりの緩和やスポーツ時の保護を目的とした製品で、歯を動かす設計にはなっていません。
画一的な形で作られているため、一人ひとりの前歯に合った力を加えることもできません。
歯並びを整える目的での使用は避けてください。
Q2. すきっ歯は自分で治せますか?
自己流の方法で隙間を閉じようとするのは避けたほうがよいでしょう。
隙間が閉じたように見えても、歯が傾いただけで根の位置は変わっていない場合があります。
前歯に限られた隙間であれば部分矯正で対応できる可能性があるため、まず相談してみてください。
Q3. 前歯だけの矯正はいくらかかりますか?
マウスピースを使った部分矯正の費用は、およそ10万円から60万円が目安とされています。
自由診療にあたるため、医療機関によって料金の設定が異なります[1]。
見積もりでは検査料や保定装置の費用まで含まれているかを確認しましょう。
Q4. 部分矯正で治せるか自分で判断できますか?
見た目だけで判断することはできません。
前歯が前に出ている場合でも、歯の傾きが原因か顎の骨格が原因かで対応が変わってきます。
レントゲン撮影などの検査を受けて初めて判断できる部分です。
Q5. 海外の通販サイトで買うのは問題ありませんか?
医療機器を個人が輸入できるのは、自分自身で使用する場合に限られています[2]。
品目や数量によっては地方厚生局への手続きが必要になる場合もあります[2]。
国内で承認されていない製品による健康被害は、救済制度の対象になりません。
Q6. 前歯だけの矯正はどのくらいの期間がかかりますか?
早ければ半年ほど、平均で10か月程度、遅くとも1年以内という目安が多く示されています。
全体矯正では2年前後かかることもあるため、期間の差は小さくありません。
症状によって幅があるため、自分のケースは検査後に確認してください。
まとめ
市販されているマウスピースは歯を保護するための製品であり、前歯を動かして並びを整える装置ではありません。
画一的な形で作られているため力の向きを制御できず、前歯だけが不自然に動いて噛み合わせが崩れる可能性があります。
海外からの個人輸入では、国内で承認されていない製品が届く可能性があり、健康被害の救済制度も対象外となります[2]。
前歯の隙間、軽度の重なり、軽度の前方への傾き、後戻りであれば、部分矯正で対応できる場合があります。
部分矯正の費用はおよそ10万円から60万円、期間は半年から1年以内が目安とされ、全体矯正より負担を抑えられます。
医療費控除や分割払い、無料カウンセリングでの比較を組み合わせれば、実際に用意する金額はさらに小さくできます。
すでに市販品を使ってしまった場合も、早めに歯科医院で確認してもらえば対処の選択肢は広く残ります。
参考文献
[1] 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
[2] 厚生労働省「医薬品等の個人輸入に関するQ&A」
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周病とは」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-03-001.html
[4] 独立行政法人国民生活センター「医療・美容医療」
https://www.kokusen.go.jp/t_box/t_box-faq/g-1.html
[5] 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
[6] 国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
免責事項
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。
※治療の可否や進め方については必ず歯科医師にご相談ください。
※効果の現れ方や治療期間には個人差がございます。
※記載の費用や期間は一般的な目安であり、医療機関や症例により異なります。