マウスピース矯正とワイヤー矯正の違いは?費用・期間・痛みを比較

マウスピース矯正とワイヤー矯正、自分にはどちらが合っているのか分からず迷っていませんか。
2つの大きな違いは、対応できる歯並びの範囲と、装置を自分で取り外せるかどうかの2点にあります。
見た目や金額だけで決めてしまうと、途中で治療方針の変更が必要になり、期間も費用も想定より増えることがあります。
この記事では費用・期間・痛み・適応する歯並びの違いを比較し、どちらが向いているかの判断基準と、両方を組み合わせる選択肢までを整理しました。
マウスピース矯正とワイヤー矯正の基本的な違い
マウスピース矯正とワイヤー矯正は、歯を動かすという目的こそ同じですが、装置の作りも力のかけ方も別ものです。
どちらも似たような治療だと感じている方は少なくありません。
しかし装置の違いは、治療中の見た目や食事、通院の回数、対応できる歯並びの範囲にまで影響します。
矯正治療は検査を行い、その結果から不正咬合の成り立ちを明らかにしたうえで治療方針が決まる流れとされています[1]。
まずは2つの装置がどのような仕組みで歯を動かすのか、ここで整理しておきましょう。
マウスピース矯正の仕組み
マウスピース矯正は、透明な装置を段階的に交換しながら歯を少しずつ動かす方法です。
治療の前に歯型やスキャンのデータをもとに歯の動きを設計し、その計画に沿って形の異なるマウスピースを何枚も作製します。
装置そのものに調整機能はなく、次の1枚に替えることが歯を動かす合図になります。
歯列全体を動かす場合、装置の枚数は数十枚に及ぶこともあり、1〜2週間ごとにご自身で交換していく流れが一般的です。
取り外しができるぶん、決められた装着時間を守れているかどうかが治療結果に直結する点は見逃せません。
計画どおりに進めば負担の少ない方法といえますが、装置を自分で管理する意識が求められる治療でもあります。
ワイヤー矯正の仕組み
ワイヤー矯正は、歯の表面に付けた装置にワイヤーを通し、その弾力を利用して歯を動かす方法です。
歯面に3mm角程度のブラケットという装置を接着し、直径0.5mm程度の細いワイヤーを通して歯並びを整えていく装置は、マルチブラケット装置と総称されています[1]。
1920年ごろに米国で開発されて以来、基本的な考え方は変わっていません[1]。
装置は歯科医師が取り付けるため患者側で外すことはできず、24時間にわたって歯に力がかかり続けます。
近年は透明で目立ちにくいブラケットも普及し、歯の表面ではなく裏側に接着するタイプも使われています[1]。
長い歴史のなかで改良が重ねられ、治療効果について信頼性の高い装置と位置づけられている点は、大きな安心材料になるでしょう[1]。
歯を動かす力のかけ方の違い
2つの装置の決定的な差は、歯にかける力を誰がどのようにコントロールするかにあります。
ワイヤー矯正はワイヤーの弾力を利用し、歯科医師が来院のたびに調整を加えて力の向きや強さを変えていきます。
マウスピース矯正では、治療前に設計されたシミュレーションどおりに装置が歯を押していく形になります。
前歯を少し回転させたい、奥歯を後ろへ動かしたいといった細かな要望に対し、ワイヤー矯正はその場で微調整を加えられる自由度があります。
一方のマウスピース矯正では、計画と実際の歯の動きにずれが出た場合、装置を作り直して計画を組み直すことがあります。
どちらが優れているという話ではなく、動かしたい距離と方向によって向き不向きが分かれると考えておくと、装置を選びやすくなります。
見た目と日常生活での違い
治療中の見た目や生活のしやすさは、装置を選ぶときに多くの方が最初に気にする点です。
毎日続くことだけに、ここを我慢できるかどうかで治療への向き合い方まで変わってきます。
マウスピース矯正は目立ちにくく取り外せる一方、ワイヤー矯正は装置を付けたままの生活に慣れる必要があります。
仕事や学校で人と話す機会が多い方ほど、この差は無視できないでしょう。
見た目・食事・歯磨き・発音の4つの場面に分けて、違いを具体的に見ていきます。
装置の見た目の違い
装置の目立ちにくさという点では、マウスピース矯正に分があります。
薄い透明な樹脂の装置を歯にかぶせる形のため、少し離れた距離では矯正中だと気づかれにくい作りになっています。
ワイヤー矯正は装置が歯の表面に並ぶため、笑ったときや会話のときに見えることは避けられません。
ただしワイヤー矯正にも、透明で目立ちにくいブラケットを選ぶ方法や、歯の裏側に装置を接着するタイプがあります[1]。
裏側に付けるタイプであれば正面からはほとんど見えず、人前に立つ仕事をしている方が選ぶこともあります。
見た目が理由で矯正治療をためらってきた方も、選べる装置は一つではないと知っておくと、気持ちが少し軽くなるかもしれません。
食事のときの違い
食事の自由度は、マウスピース矯正のほうが高くなります。
食事のあいだは装置を外すため、これまでと同じ食べ方を続けられるためです。
ワイヤー矯正では装置が付いたままになり、硬い食べ物や粘着性のある食べ物によって装置が外れたり壊れたりすることがあります。
おせんべいやフランスパンのように硬いもの、キャラメルやガムのように歯にくっつくものは、ワイヤー矯正中に注意を促されやすい食品です。
マウスピース矯正の側にも制約はあり、色の濃い飲み物を装着したまま口にすると装置が着色するため、水以外は外して飲むのが基本になります。
外食や会食の多い生活を送っている方にとって、この違いは毎日のストレスを大きく左右する要素といえます。
歯磨き・お手入れの違い
毎日の歯磨きのしやすさでも、マウスピース矯正のほうが負担は軽くなります。
装置を外して普段どおりに磨けるため、特別な道具をそろえなくても口の中を清潔に保てます。
ワイヤー矯正では装置の周りに汚れが残りやすく、歯間ブラシや毛束の小さいタフトブラシを組み合わせた丁寧なケアが必要です。
装置の隙間に食べかすが挟まったまま長時間過ごすと、虫歯や歯ぐきの炎症につながることがあります。
マウスピース矯正の側にも、装置そのものを毎日洗って乾かすという手間が加わる点は知っておきたいところです。
手間がゼロになる装置はありませんが、慣れるまでの負担はワイヤー矯正のほうが大きいと感じる方が多いようです。
発音や会話への影響の違い
話しにくさは、どちらの装置でも治療の初期に起こります。
口の中に装置が入ることで舌の動きが妨げられ、発音が変わってしまうためです。
マウスピース矯正ではサ行やタ行が言いにくくなったと感じる方がいます。
ワイヤー矯正では装置が唇や舌に当たり、痛みや違和感をともないながら話しづらさが続くことがあります。
歯の裏側に装置を付けるタイプは舌が触れる位置に装置があるため、慣れるまでに時間がかかりやすい傾向です。
多くの場合は数日から2週間ほどで慣れていくため、大事な仕事を控えている方は繁忙期を避けて開始時期を決めておくと安心です。
治療期間と通院頻度の違い
治療にかかる期間は、装置の種類よりも歯並びの状態によって大きく左右されます。
いつ終わるのか見通しが立たないまま通い続けるのは不安ですよね。
歯列全体を動かす矯正では1年半から3年程度、前歯だけを整える部分矯正では数か月から1年程度が一つの目安です。
通院の間隔には装置による差があり、仕事や学校のスケジュールへの影響もここで分かれます。
期間と通院の違いを3つの角度から順に整理します。
治療期間の目安と個人差
治療期間はマウスピース矯正とワイヤー矯正で大きな差がつくわけではなく、歯をどれだけ動かすかで決まります。
歯が骨のなかを移動する速度には限界があり、装置を変えたからといって歯の動くスピードそのものが急に速くなるわけではないためです。
動かす距離が長いほど、また動かす歯の本数が多いほど、必要な期間は延びていきます。
前歯の軽い凸凹を整えるだけなら半年前後で終わるケースもあり、抜歯をともなう全体矯正では2年から3年かかることもあります。
複雑な動きが必要な歯並びでは、細かい調整のきくワイヤー矯正のほうが結果として早く仕上がる場合もあります。
期間の見通しは検査と診断を受けて初めて具体的になるため[1]、広告に書かれた最短の月数だけで判断しないほうが安心でしょう。
通院の頻度と1回あたりの内容
通院の回数を抑えたい方には、マウスピース矯正のほうが向いています。
装置の交換をご自身で行う仕組みのため、医療機関での調整が毎月必要になるわけではありません。
マウスピース矯正では1〜3か月に1回程度、ワイヤー矯正では1か月に1回程度の通院が一つの目安になります。
ワイヤー矯正の通院ではワイヤーの交換や締め直しといった処置が行われ、1回あたり30分前後かかることも珍しくありません。
マウスピース矯正の通院は、歯が計画どおりに動いているかの確認と次の装置の受け取りが中心です。
平日に休みを取りにくい方や転勤の可能性がある方は、通院間隔と1回の所要時間を事前に確かめておくと予定を立てやすくなります。
治療期間が延びる主な原因
予定より期間が延びる原因の多くは、装置そのものではなく治療中の過ごし方にあります。
マウスピース矯正では装着時間の不足が計画のずれに直結し、動くはずだった歯が動かないまま次の装置に進めなくなります。
ワイヤー矯正では装置の破損や脱離が起こると、その修理だけで通院が1回分費やされてしまいます。
1日20時間以上という装着の目安を下回る日が続くと、装置が浮いて合わなくなり、作り直しが必要になることもあります。
治療の途中で虫歯や歯周病が見つかった場合、そちらの処置を優先して矯正を一時中断するケースもあります。
期間を延ばさない工夫は、装置の指示を守ることと、口の中の健康を保ちながら通い続けることに尽きると考えられます。
費用の違いと総額で考えるときの注意点
矯正治療の費用は、装置の種類だけでなく動かす範囲によって大きく変わります。
金額の幅が広く、何を基準に比べればよいのか分からなくなりますよね。
矯正治療の多くは自由診療にあたり、料金は医療機関ごとに設定されています。
装置代だけを見比べても、最終的に支払う総額の差は見えてきません。
相場の考え方と、見落としやすい追加費用の内訳を確認しておきましょう。
装置別の費用の目安
費用の目安は、歯列全体を動かす矯正でおおむね50万円から120万円程度、部分矯正で10万円から70万円程度の範囲に収まります。
幅が大きいのは、動かす歯の本数と治療の難易度、そして装置の種類が金額に反映されるためです。
歯の表側に付けるワイヤー矯正は比較的抑えやすく、裏側に装置を接着するタイプは製作や調整に手間がかかるぶん高くなる傾向があります。
マウスピース矯正では装置の枚数が費用を左右し、前歯だけを整えるプランと歯列全体を動かすプランで金額が倍以上変わることもあります。
同じ「マウスピース矯正」という名称でも、奥歯の噛み合わせまで含めて動かす治療かどうかで内容は別ものになります。
料金設定は医療機関ごとに異なるため、複数の医院でカウンセリングを受けて見積もりを比べるのも一つの方法です。
装置代以外にかかる費用
装置代だけを比べていると、実際に支払う総額を見誤ります。
矯正治療では、装置を付ける前にも外したあとにも費用が発生する場面があるためです。
初診相談料、精密検査・診断料、通院ごとの調整料、治療後に使う保定装置の費用、抜歯が必要な場合の処置料などが代表的な項目になります。
調整料は1回3,000円から10,000円程度が目安とされ、毎回支払う仕組みの医療機関では通院回数がそのまま総額に響きます。
治療にかかる費用をあらかじめ一括で提示する総額制を採用している医院もあり、追加費用の有無は契約前に確かめておきたい部分です。
提示された金額がどこまで含まれた金額なのかを書面で残しておけば、あとから想定外の請求に驚くことはなくなります。
医療費控除と保険適用の考え方
矯正治療の費用は、条件を満たせば医療費控除の対象になります。
国税庁は、発育段階にある子どもの成長を阻害しないようにするために行う不正咬合の歯列矯正のように、受ける人の年齢や矯正の目的からみて必要と認められる場合の費用は医療費控除の対象になるとしています[2]。
同じ歯列矯正でも、容ぼうを美化するための費用は対象にならないと明記されています[2]。
健康保険が使えるケースは限られており、下あごを手術で動かすような外科矯正治療をともなう顎変形症や、国が定める先天疾患に起因する不正咬合の矯正歯科治療が対象になります[1]。
保険が適用される医療機関も限られるため、該当しそうな場合は治療を始める前の確認が欠かせません[1]。
控除を受けられるかどうかは最終的に税務署の判断になりますが、領収書と通院の記録を残しておけば選択肢を手元に残せます。
痛みや違和感の出方の違い
矯正治療をためらう理由として、痛みへの不安を挙げる方は少なくありません。
どのくらい痛むのか分からないまま始めるのは、やはり怖いですよね。
歯を動かす以上どちらの装置でも痛みは生じますが、出るタイミングと続く長さには違いがあります。
痛みの感じ方には個人差が大きく、同じ装置でもほとんど気にならない方と、数日つらいと感じる方に分かれます。
痛みが出る場面と和らげる方法を知っておくだけでも、治療への向き合い方は変わってきます。
痛みが出るタイミングの違い
痛みが出やすいのは、どちらの装置でも新しい力がかかり始めた直後です。
歯に力が加わると、歯を支える組織で骨の代謝が起こり、その過程で痛みや違和感が生じるためです。
ワイヤー矯正では、装置を初めて付けた直後と、通院でワイヤーを調整した直後に痛みのピークがきます。
マウスピース矯正の場合は、初めて装着したときと、新しい装置に交換した直後に締めつけられる感覚が出やすくなります。
ワイヤー矯正の調整は1か月に1回程度、マウスピースの交換は1〜2週間ごとのため、痛みを感じる回数そのものはマウスピース矯正のほうが多くなる計算です。
痛む場面があらかじめ分かっていれば、大事な予定の直前を避けて交換日をずらすといった工夫もできるでしょう。
痛みの強さと続く長さ
1回あたりの痛みは、マウスピース矯正のほうが軽く感じられる傾向があります。
1〜2週間ごとに少しずつ形の違う装置へ移るため、1回で歯にかかる力が小さく設計されているためです。
ワイヤー矯正は1か月分の移動をまとめて動かす形になり、調整直後の数日は硬いものが噛みにくいと感じる方もいます。
痛みが続く長さの目安は、ワイヤー矯正で数日程度、マウスピース矯正では数時間から翌日ごろまでとされることが多いようです。
ワイヤー矯正には装置が唇や頬の内側に当たって傷ができるという別の痛みもあり、こちらは歯の動きとは関係なく起こります。
痛みの総量で比べるとマウスピース矯正のほうが穏やかですが、頻度は増えるという点も含めて考えておくと納得しやすくなります。
痛みが強いときの対処法
痛みが強い時期は、噛む力を必要としない食事に切り替えるのが現実的な対処になります。
歯が動いている最中は、硬いものを噛んだときに響くような痛みが出やすくなるためです。
おかゆやスープ、豆腐、煮込んだ野菜など、やわらかい食事に数日置き換えるだけでも負担はかなり軽くなります。
ワイヤー矯正で装置が粘膜に当たる場合は、装置を覆う専用のワックスを歯科医師から受け取って使う方法もあります。
痛みをやり過ごすために装置を外したままにすると、歯が元の位置へ戻ろうとして、次に装着したときの痛みがかえって強くなることがあります。
市販の鎮痛薬を使いたい場合は自己判断で続けず、通っている医療機関に相談しておくと安心して過ごせます。
虫歯・歯周病のリスクと口の中のトラブル
矯正治療を進めるうえで見落とせないのが、治療中の虫歯や歯周病です。
歯並びを整えている最中に虫歯ができてしまっては本末転倒ですよね。
装置が口の中にある状態は、どちらの方法でも汚れがたまりやすい環境を作ります。
治療が中断されると期間も費用も膨らむため、日々のケアは治療の一部と考えたいところです。
装置によるリスクの差と、トラブルを防ぐ具体的な方法を確認していきます。
虫歯・歯周病リスクの違い
虫歯や歯周病のリスクという点では、取り外せるマウスピース矯正のほうが管理しやすくなります。
装置を外して普段どおりに磨けるため、歯の表面に付いたプラークを落とす作業を邪魔されないためです。
プラークは粘着力があり水に溶けないため、うがいだけでは取り除けず、歯ブラシで機械的に落とすことが基本とされています[4]。
ワイヤー矯正ではブラケットやワイヤーが歯ブラシの動きを妨げ、装置の周囲や歯と歯の間にプラークが残りやすくなります。
歯と歯の間のプラークはブラッシングだけでは落としにくく、歯間ブラシやデンタルフロスといった清掃用具を併用することがすすめられています[4]。
装置の種類にかかわらず、道具を足して磨き残しを減らす発想を持っておくと、治療中の口の中を守りやすくなります。
装置による粘膜や歯ぐきのトラブル
歯以外のトラブルは、ワイヤー矯正のほうが起こりやすい傾向にあります。
金属の装置が唇や頬の内側、舌に直接触れるため、擦れて口内炎ができることがあるためです。
装着したばかりの時期や、ワイヤーの先端が伸びてきた時期に、同じ場所が繰り返し傷つくケースもみられます。
歯ぐきの腫れは、装置の周りに汚れが残ったまま時間が経つことで起こり、磨くと血がにじむ状態になる方もいます。
マウスピース矯正では粘膜が傷つくことは少ないものの、装置の縁が歯ぐきに当たって違和感が出る場合があります。
痛みや腫れが1週間以上続くようであれば、我慢を重ねずに担当の歯科医師へ伝えておくのが良いでしょう。
治療中に取り入れたいセルフケア
治療中は、これまでどおりの歯磨きに一手間を足すことが虫歯予防の近道になります。
自宅でのセルフケアだけでプラークを毎日完全に取り除くことは現実には難しいと考えられているためです[3]。
奥歯の噛み合わせの溝や歯と歯の隙間は歯ブラシが届きにくく、磨いているつもりでも汚れが残りやすい場所とされています[3]。
矯正治療中の方は虫歯になるリスクが高い人として位置づけられ、歯科医師や歯科衛生士によるフッ化物の歯面塗布が行われることもあります[5]。
セルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアを組み合わせることが、予防を成功させるうえで欠かせないとされています[3]。
装置が付いている期間こそ定期的に医療機関でチェックを受けておくと、小さな異変の段階で対応できます。
対応できる歯並びの違い
装置を選ぶうえで、見た目や費用より優先すべきなのが「自分の歯並びに使えるかどうか」です。
希望した装置で治療できないと言われたら、がっかりしてしまいますよね。
永久歯が生えそろった年齢では、ほとんどの場合マルチブラケット装置を用いて歯を並べ直す治療が行われています[1]。
マウスピース矯正にも治療効果は報告されていますが、対応できる範囲には限りがあります[1]。
どのような歯並びで差が出るのか、具体的に見ていきます。
マウスピース矯正で対応が難しい歯並び
マウスピース矯正には、対応が難しいとされる歯並びが存在します。
装置が歯を包み込んで押す仕組みのため、歯を大きく動かしたり、根元から起こすような複雑な動きが苦手なためです。
厚生労働省の情報サイトでも、マウスピース型の装置についてはマルチブラケット装置の治療効果には劣るものの効果があると報告されており、ある種の不正咬合には効果を発揮すると位置づけられています[1]。
抜歯をして大きなすき間を閉じるケースや、奥歯の噛み合わせごと動かす必要があるケースでは、装置だけで仕上げきれないことがあります。
顎の骨格そのものにずれがある場合も、装置で歯を動かすだけでは根本的な改善につながりません。
対応が難しいと診断されたとしても選択肢が消えるわけではなく、装置を変える、組み合わせるといった道が残されています。
ワイヤー矯正が選ばれやすいケース
歯を大きく動かす必要がある歯並びでは、ワイヤー矯正が選ばれやすくなります。
装置が歯に固定され、歯科医師が力の向きや強さをその場で調整できるためです。
永久歯が生えそろった年齢の治療では、個々の歯を並べ直す目的でマルチブラケット装置が広く使われています[1]。
抜歯をともなう治療、噛み合わせを大きく作り直す治療、歯を根元から起こす動きが必要な治療などが代表的な対象になります。
骨格のずれが著しく大きい場合は一般的な矯正治療の範囲を越え、あごの骨を手術で動かす外科矯正治療が行われることもあります[1]。
自分の歯並びが該当するかどうかは見た目だけでは判断がつかないため、診断を受けてから考えても遅くはありません。
適応の判断は精密検査で決まる
どちらの装置が使えるかは、精密検査を受けて初めて分かります。
歯並びの乱れが歯の位置によるものか、あごの骨格によるものかで、必要な治療がまったく変わってくるためです。
矯正治療では、側面頭部エックス線規格写真といった専門的な検査を用いて、骨格・歯槽・機能のどこに問題があるのかを明らかにしたうえで治療方針が決まります[1]。
この検査は一般的な歯科医院にはない設備で行われることもあり、矯正を扱う医療機関で受ける流れになります[1]。
検査を省いて装置だけを先に決めてしまうと、治療の途中で計画の変更が必要になり、期間と費用が想定を超えることがあります。
装置を選ぶ順番ではなく、検査を受けてから選ぶ順番に切り替えると、遠回りを避けられるでしょう。
後戻りと保定期間の考え方
矯正治療は、装置を外した時点では終わりではありません。
せっかく整えた歯並びが元に戻ってしまうのは避けたいですよね。
歯を動かす期間のあとには、位置を安定させるための保定期間が続きます。
この保定を軽く考えてしまうと、時間もお金もかけた治療の結果が損なわれかねません。
後戻りが起こる理由と、保定期間の過ごし方を確認しておきましょう。
後戻りが起こる理由
装置を外した直後の歯は、元の位置へ戻ろうとする力を受けています。
歯を支えている骨や歯ぐきの組織が、新しい歯の位置にまだ慣れていないためです。
歯を大きく動かした場合や、噛み合わせを作り直した場合ほど、戻ろうとする力は強くなります。
装置を外して数日から数週間のあいだが最も不安定な時期にあたり、この時期の過ごし方が仕上がりを左右します。
舌で歯を押す癖や口呼吸といった習慣が残っていると、歯並びが再び乱れる要因になることもあります。
後戻りは失敗ではなく起こりうる変化として想定されているため、あらかじめ備えておけば慌てずに済みます。
保定装置の種類と装着期間
保定期間には、リテーナーと呼ばれる保定装置を装着します。
歯を動かす装置とは目的が異なり、整った位置に歯をとどめておく役割を担うためです。
取り外しができる透明なマウスピースタイプ、ワイヤーとプレートを組み合わせたタイプ、歯の裏側に細い針金を接着する固定式タイプなどがあります。
保定にかかる期間は歯を動かした期間と同程度が一つの目安とされ、装置を外して最初の1年ほどは食事と歯磨き以外の時間に装着する指示が出ることが多くなります。
その後は歯並びの安定を確認しながら、夜間のみといった形へ段階的に装着時間を減らしていきます。
装着時間を自分の判断で短くすると歯が動いて装置が合わなくなるため、指示に沿って続けることが仕上がりを守る近道です。
後戻りを防ぐために意識したいこと
後戻りを防ぐうえで最も効果的なのは、保定期間中の通院を続けることです。
歯の位置は少しずつ変化するため、自分では気づけないずれを定期的に確認してもらう必要があるためです。
保定期間の通院間隔は、装置を外してから1か月後、3か月後、6か月後と徐々に空き、その後は年に1回程度へ移っていく流れが一般的です。
リテーナーが割れた、変形した、きつくて入らないといった変化があれば、放置せず早めに連絡することが求められます。
装置が合わなくなったまま数か月過ごすと、作り直しの費用が別に発生することもあります。
治療が終わったあとの数年をどう過ごすかまで含めて計画を立てておくと、整えた歯並びを長く保てるでしょう。
併用と途中変更という選択肢
装置は、どちらか一方を選び切らなければならないものではありません。
決められないまま時間だけが過ぎてしまう方も多いのではないでしょうか。
近年は2つの装置を組み合わせる方法や、治療の途中で切り替える方法も選択肢に入ってきています。
ただし、どの医療機関でも同じように対応できるわけではない点には注意が必要です。
第3の選択肢と、それを実現するための医院選びを確認していきます。
ワイヤーとマウスピースを組み合わせる方法
2つの装置を段階的に使い分ける方法があります。
それぞれの装置に得意な動きがあり、順番に使うことで一方だけでは難しかった治療に対応できる場合があるためです。
歯を大きく動かす前半をワイヤー矯正で進め、細かく整える後半をマウスピース矯正に引き継ぐ流れが取られやすい形です。
抜歯をともなうケースで、抜いたあとのすき間をワイヤーである程度閉じてから、マウスピースで仕上げるという進め方が検討されることもあります。
後半に装置が目立たなくなるため、見た目の負担を軽くしながら治療を進めたい方には現実的な選択になります。
一方だけでは無理だと言われた歯並びでも、組み合わせによって希望に近づけられる可能性は残されています。
治療の途中で装置を切り替える場合
治療の途中で装置を変更できるかどうかは、歯の動き方の状況によって判断されます。
装置を切り替えるには、歯の型を取り直し、治療計画を作り直す作業が必要になるためです。
ワイヤー矯正を始めたものの見た目が気になる、マウスピースの自己管理が続かず固定式にしたいといった相談は実際にみられます。
計画の再作成や装置の再製作にともない、追加の費用と期間が発生することは想定しておきたい部分です。
そもそも両方の装置を扱っていない医療機関では、途中変更そのものに対応できないケースもあります。
治療を始める前に「希望が変わった場合はどうなるのか」を聞いておけば、あとから選択肢がなくなる事態を防げます。
医療機関選びで確認しておきたいこと
医院を選ぶ段階でいくつか確認しておくと、治療開始後の不安が減ります。
矯正治療は年単位で続く治療であり、途中で医院を変えることが簡単ではないためです。
精密検査の内容と費用、総額に何が含まれるか、通院の頻度、装置が壊れたときの対応、保定期間の費用などが確認しておきたい項目になります。
両方の装置を扱っている医院であれば、最初の診断の段階から併用や切り替えを見込んだ提案を受けられることもあります。
料金の安さだけを前面に出した勧誘や、その場での契約を急がせる説明に対しては、いったん持ち帰る判断が身を守ります。
説明の内容を書面で受け取り、納得したうえで契約する姿勢を持っておくと、安心して治療をスタートできるでしょう。
自分に向いているのはどちらかを見分ける
ここまでの違いを踏まえて、最後に選び方を整理します。
結局どちらを選べばよいのか、まだ迷っている方もいるかもしれません。
判断の軸になるのは、歯並びの状態・生活スタイル・自己管理のしやすさの3つです。
歯並びの状態は診断を受けないと分かりませんが、残りの2つは今の時点でも考えられます。
それぞれの装置が向いている方の特徴を挙げていきます。
マウスピース矯正が向いている人
マウスピース矯正は、装置を自分で管理できる方に向いています。
1日20時間以上という装着時間を守れるかどうかが、治療結果を大きく左右するためです。
人前に立つ機会が多く見た目を優先したい方、外食や会食が多い方、金属アレルギーが心配な方とも相性が良い方法になります。
通院の間隔が空くため、平日に休みを取りにくい方や出張の多い方にも選ばれています。
歯並びの乱れが比較的軽い方であれば、短い期間で治療が終わるケースもあります。
装置を外している時間が長くなりそうだと感じる方は、この方法を選ぶ前に生活を振り返っておくと後悔を避けられます。
ワイヤー矯正が向いている人
ワイヤー矯正は、自己管理に自信がない方や、歯を大きく動かす必要がある方に向いています。
装置が固定されているため、意識しなくても24時間力がかかり続けるためです。
抜歯をともなう治療や、噛み合わせを作り直す治療を提案された方は、この方法が候補になりやすくなります。
装置を外し忘れる心配がなく、決められた日に通院すれば治療が進んでいく点も負担が少ない部分です。
見た目が気になる場合は、透明なブラケットや歯の裏側に装置を付けるタイプという選択肢があります[1]。
確実に仕上げたい気持ちが強い方にとって、歯科医師が細かく調整できる方式は心強い選択になるでしょう。
迷ったときの決め方
迷ったまま結論が出ないときは、複数の医療機関でカウンセリングを受けるのが近道です。
同じ歯並びでも、扱っている装置や診断の考え方によって提案される治療が変わることがあるためです。
1軒目で提案された内容をメモに残し、2軒目で同じ質問をすると、共通している部分と分かれている部分がはっきりします。
複数の医院で共通して指摘された点は、装置の違いを超えて優先すべき課題だと考えられます。
費用の総額、期間の見通し、対応できる装置の種類を並べて比べれば、判断の材料はそろいます。
その場で決めなくても構いませんので、納得できるまで情報を集めてから一歩を踏み出してみてください。
マウスピース矯正とワイヤー矯正に関するよくある質問
Q:治療の途中でもう一方の装置に変更できますか?
A:歯の動き方の状況によっては変更できる場合があります。
歯型の再取得や治療計画の作り直しが必要になり、追加の費用と期間が発生することがあります。
両方の装置を扱っていない医院では対応できないため、治療開始前に確認しておくと安心です。
Q:どちらのほうが早く治療が終わりますか?
A:装置の種類よりも、歯を動かす距離と本数によって期間は決まります。
軽い凸凹ならマウスピース矯正が短く済むこともあり、複雑な動きが必要な場合はワイヤー矯正のほうが早く仕上がることもあります。
正確な見通しは検査と診断を受けてから分かります[1]。
Q:矯正治療は医療費控除の対象になりますか?
A:年齢や矯正の目的からみて必要と認められる場合の費用は、医療費控除の対象になります[2]。
発育段階にある子どもの成長を阻害しないために行う不正咬合の歯列矯正が、その例として挙げられています[2]。
一方で、容ぼうを美化するための費用は対象になりません[2]。
Q:安さを打ち出しているマウスピース矯正を選んでも問題ありませんか?
A:金額だけで判断せず、治療の範囲を確認することが大切です。
前歯だけを並べるプランと、奥歯の噛み合わせまで含めて動かすプランでは、内容がまったく異なります。
契約を急がせる説明を受けた場合は、その場で決めずに持ち帰る判断が身を守ります。
まとめ
マウスピース矯正とワイヤー矯正は、装置の仕組みと歯にかける力のコントロール方法が異なります。
見た目や食事、歯磨きのしやすさではマウスピース矯正に利点があり、装着時間の自己管理が結果を左右します。
ワイヤー矯正は装置が固定されるため管理の手間が少なく、大きな移動や複雑な動きに対応しやすい方法です。
治療期間は装置の種類より歯を動かす距離で決まり、費用は装置代だけでなく検査料や調整料、保定装置まで含めた総額で比べる必要があります。
対応できる歯並びには差があり、どちらが使えるかは精密検査を受けて初めて判断できます。
2つを組み合わせる方法や途中で切り替える方法もあるため、一方に決め切れなくても選択肢は残されています。
自分の歯並びに合う方法を知ることが第一歩ですので、気になった時点で矯正を扱う医療機関に相談してみてください。
参考文献
[1] 厚生労働省 e-ヘルスネット「不正咬合の治療法の概要」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-06-002.html
[2] 国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1128.htm
[3] 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯みがきによるむし歯予防効果(予防法)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-02-015.html
[4] 厚生労働省 e-ヘルスネット「プラーク/歯垢」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/teeth/yh-031
[5] 厚生労働省 e-ヘルスネット「むし歯(むし歯の特徴・原因・進行)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth-summaries/h-02
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療アドバイスではありません。
治療に関しては必ず歯科医師にご相談ください。
※効果・効能・副作用の現れ方は個人差がございます。
※歯科医師の判断により、ご希望の治療を行えない場合があります。